彩花の騎士
ストーリー 58

・・・カタン、カタン・・・カタン、カタン・・・・・

電車に揺られ、七日市(彩花街のある市)に一人向かうモトコ。


座席に座り、膝の上に置いたリュックサックを軽く抱くように持ち、
向かえ側の窓の外を眺める・・・

連休中の昼とはいえ、いや休みの昼だからこそ

都会から郊外へ行く車内は空いている。



流れる景色が、ビルばかりで圧迫感のあったものから
徐々に住宅地などの低い建物に変わっていく・・・・・

 モトコ(・・・・・いつもはキリア先生の車だけど・・・たまには電車もいいかな♪)

そんな事を思いながら、
ふと、空いた座席に距離をおいて座る親子に目が行く・・・

ぐずる少女に、飴を渡す母親・・・



 モトコ「・・・・・・・」



その様子を見て、昔のことを思い出すモトコ・・・・・











・・・・・―――――――










12年前・・・・・モトコ、3歳。


彼女は両親の顔を知らない。

しかしその事で、寂しいと感じたことはなかった・・・

優しい老夫婦に養子として迎えられ、深い愛情をそそがれ育ったからだ。



人里離れた山に建てられた、大きなログハウス調の家。
モトコが幼少期を過ごした場所・・・

過去に研究者をしていた老夫婦。
その家の中は、外観からは想像も出来ないほど本に溢れており
壁一面が本棚のような、そんな環境だった・・・。


 幼少モトコ「わかったよ!おばあちゃん!、この式を使えばいいんだね!」
 養母「そうだよ、モトコは賢いねぇ〜(^^)」


膝の上に乗せた小さなモトコの頭を優しくなでる養母・・・

モトコが読んでいるのは
年頃の子供が見る絵本ではなく、数字や記号ばかりの分厚い学術本。


回りに同年代の子供もいなかったため、
自然と難しい本が友達代わりになっていた・・・。

彼女にとっては、それはそれでとても満たされた日々であった。







・・・・・しかしあまりに特出した知識や能力は、時に孤独を生む・・・

小学校・・・そして中学校に通う頃・・・・・

公の場所にそんな少女が現れれば
本人の意思とは関係なく、“天才”という言葉が一人歩きをはじめる・・・・・

気が付けば、“中学生 兼 大学生”などと
どちらの場所でも浮いた存在となっていたモトコ。






・・・・・






現在より約3年前。

モトコ、中学1年生・・・・・初夏。


朝のホームルームにて、出席確認だけを済ませ
モトコは中学校を後にする・・・・・。


校門を出ると、
紳士的な白髪の養父が、軽自動車の運転席で待機している・・・

これから大学へ送ってもらうのだ。


 モトコ「・・・お待たせ!(^^)」
 養父「今日はご機嫌だな」
 モトコ「うん!、だって今日はディアースの組立実習だもん♪」



走る車・・・・・車内。

 養父「・・・どうだ?、大学は?」
 モトコ「もちろん!楽しいよ!
     ウルズマイト工学の講義とか24時間受けれそうだよ(^^)」

 養父「それはまた凄いなw」
 モトコ「でも人気があるから、前の席はすぐ埋っちゃって・・・;」

 養父「モトコは小さいからな〜・・・誰も代わってくれないのか?」
 モトコ「び、微妙かな〜・・・(^^;)
     やっぱりちょっと浮いちゃってる存在だし、アタシ・・・ハハ・・・」



 養父「・・・・・」
 モトコ「・・・・・」



 養父「・・・・・。心配ない・・・。
    私のような変人扱いされた人間だって、おばあさんと出会えたんだw」
 モトコ「それだと、おばあちゃんが変人好きみたいになっちゃうよ(^^;)」

 養父「ハハハw、そうなるな!w
    だが、お前の価値を本当に理解してくれる人が、私達意外にもきっと現れる・・・」
 モトコ「・・・うん(^^)」





・・・・・





『某エリート大学』。

広いキャンパスから少し離れた場所に、
ディアース用の大きな格納庫がある・・・

中では、バラされたのか、組立途中なのかは不明だが
そのようなディアースが4機と、完成品が1機・・・ズラリと壁際に並べられている。



・・・カツン!

そんな油臭い格納庫内に、場違いに響く
ハイヒールが地面を踏み込む音・・・

それを鳴らした人物は、ボディコンスーツのようなパツンパツンな服に
白衣を重ねた派手な女性・・・・・当時のキリア先生だ。



午前中、まだ生徒も来ていない静かな格納庫内・・・
並んだディアースを、白衣のポケットに手を入れ、仁王立ちで見上げるキリア先生。


 職員「・・・どうです?、浦沢先生。この1番機の仕上がり!!」素晴らしいでしょう!
キリア先生の横に付き添っている大学職員が、
完成品のディアースを自信満々の表情で指す・・・

 キリア「あぁそうだな・・・及第点だ」
 職員「おぉやはり手厳しいですな!、私は満点と思いましたが・・・」



 キリア「・・・・・・・それよりも3番機は誰が作っている?」
組立途中の中でも、特に遅れているディアースに目を向けるキリア先生・・・


 職員「・・・?。3番・・・ですか?」
手に持つ資料をペラペラめくる職員・・・


 職員「・・・あぁ閃ですね。閃モトコ」
 キリア「ひらめき・・・。覚えておこう」

 職員「あれ?御存知ありません?。中学生兼大学生の天才少女・・・」
 キリア「知らん」

 職員「まぁ頭は良くても所詮は子供。作業はご覧の通りの遅さですがw」ハハハw


 キリア「・・・・・なるほど。そういう事か・・・」

 職員「はい?」

 キリア「いや、何故こんな中途半端な時期に
     出講を言い渡されたのか、本当の理由が分かってな・・・」
 職員「・・・はぁ・・・???」




・・・




それからしばらくして、格納庫に5人の生徒達がやって来る・・・

4人の大学生達から少し距離を空けて、遠慮がちに歩くモトコの姿・・・。


そのモトコを見たキリア先生は・・・

 キリア(っ!?!!!!!)ズキューーーーーン!!←ビームライフル音

一人衝撃を受ける

 キリア(・・・・・な、なんだ!?・・・あのちっちゃカワイイ生物は!?!!;)はわわ/////


 職員「・・・えぇ〜皆さん
    先日お伝えした通り、今日から週2回入って頂くことになった浦沢先生です」
 キリア「・・・・・」ポカ〜ン・・・・・

 職員「浦沢先生?」
 キリア「ハッ!?;。・・・あ、あぁ・・・浦沢だ、宜しく・・・―――――」




ディアースの組立実習。
その名の通り、一人の生徒が実際に、一機のディアースを作っていく実習・・・

これを受けていたモトコと、
非常勤講師として急遽やって来たキリア先生・・・・・2人の出会いである。







・・・







それから数週間進み・・・・・本格的な夏。


 大学生A「―――・・・頑張れよ、天才少女!w」
 大学生B「頑張んなよ〜w」
 モトコ「はい、御疲れ様です(^^;)」

少し茶化したような声をかけ、格納庫を後にする大学生達・・・

5機中4機、大学生達が担当したディアースは全て完成し、夏期休暇に突入する。


モトコが組み立てを担当しているディアースは、相変らず作業が遅れており・・・
一人、格納庫に残って黙々と作業継続中。


その姿を、見守るに留まるキリア先生・・・

 キリア「・・・・・・・」





・・・





・・・1週間後。

夏期休暇、真っ只中で人気が減った学内・・・

冷房もない格納庫へわざわざ足を運ぶ生徒は、モトコだけとなっていた・・・


ミーンミンミンミンミンミンミンミンミンミィ〜〜〜ン・・・
ウィィィィィ・・・ン、ウィィィィィ・・・ン・・・


風通しに開けた換気窓から降り注ぐ蝉の声と、
電動ドライバーの音だけが格納庫内に響く・・・



 モトコ「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・んしょ!」

他の大学生達から遅れながらも
地道に作り続けて来たディアースも、いよいよ残すは頭部のパーツ1つ・・・

頬を伝う汗を軍手で拭い、最後のパーツを取り付ける・・・。



 モトコ「・・・・・・・・・・で、出来たっ!!!」

思わず口から漏れる達成感・・・





・・・・・パチ、パチ、パチ、パチ、パチ・・・・・

それに添えるように、拍手のような手を叩く音が下の方から聞こえる・・・

 モトコ「!」



ディアースの頭部の高さまで上げたクレーン台の上から、
モトコが身を乗り出して下を覗くと・・・

キリア先生の姿。

 キリア「・・・よくやったな。お疲れ様(^^)」
 モトコ「・・・・・は、はい!!」


 キリア「下りてこい。祝杯だ」
掲げた右手には、コンビニ袋に入ったジュースが見える


・・・


 キリア「・・・適当に買って来たジュースだが・・・それでよかったか?」アタシはコーヒーだ
 モトコ「はい!、“もっちゃんピーチ味”大好きです!(^^)」

2人は、パーツが入っていた適当な空箱をイス代わりにし、
モトコが完成させたディアースを見上げながら、ジュース&缶コーヒーを飲む・・・


 キリア「・・・・・うん、実にイイ仕事だ」
 モトコ「ありがとうございます(^^)」

 キリア「アタシは基本、世辞は言わんからな。本当だぞw」

 モトコ「フフw」
モトコは地面に届いていない足をパタパタさせ、無意識に喜びを体で表現する

 キリア(ズキューーーン!!/////)←ビームライフル音



 モトコ「・・・でも、凄い時間かかっちゃいました;」

 キリア「なに、お前の作業の遅さは丁寧が故。
     はじめての組立、ここはそれを学ぶ場。それでいいんだ」
 モトコ「浦沢先生・・・」


量の少ない缶コーヒーを、一気に飲み干すキリア先生・・・



 キリア「・・・・・それと、
     この実習が終わったらお前に言おうと思ってたんだが・・・」
 モトコ「はい・・・。?」


 キリア「なんだ・・・・・・・・」
 モトコ「?」





 キリア「・・・・・閃モトコ、お前はアタシを頼れ」
 モトコ「・・・!」







ミーンミンミンミンミンミンミィ〜〜〜ン・・・




蝉の鳴き声が響く格納庫内・・・

キリア先生が少し照れくさそうに、
視線をあえて合わさずにそう言い放った一言・・・

それは、モトコが今まで勝手に背負わされていた“天才少女”という重荷、
そして孤独から解き放つ言葉だった。


 キリア「!?・・・・・お、おいっ!?、何故泣く!?;」
 モトコ「っ・・・・・」

 キリア「ホラ飴だ;、飴玉も買って来たぞ!;」焦々

慌てながらコンビニ袋をガサガサ漁るキリア先生・・・








・・・・・








・・・さらに2年半の月日を経・・・・・モトコ、中学3年生。冬。

中学卒業を控え、大学卒業の資格も取り、次なる進路・・・・・


 キリア「―――――・・・モトコ、女子高生を満喫してみないか?」
 モトコ「!、それって・・・」

 キリア「授業が退屈ならアタシが別に見てやるぞw」
 モトコ「キリア先生の・・・」

 キリア「あぁ、三枝だ」












・・・・・―――――――










・・・現在。


昔のキリア先生との出会いを思い出していたモトコ・・・

そこに、ケータイへのメール着信。


 モトコ(!。誰からだろ・・・?)

 メール文【From:キリア先生 / ケチャップ切れた、ストックどこだ?】

 モトコ(・・・・・;。昔は「アタシを頼れ」ってカッコ良かったのに〜(^^;))

微笑んだ呆れ顔で返信メールを送るモトコ・・・



 電車アナウンス「・・・次は叶街、叶街です。
         ザ・ネクストステーションイズ かのぅまちぃ〜」

 モトコ(あ!、もう次の駅・・・)
パタリとケータイを畳み、下りる準備・・・




・・・




到着した叶街の駅の改札の先では・・・

モトコと待ち合わせをしているシノブの横に、もう一人見知った人物の姿・・・


 アカネ「・・・お!、来た来た!。おぉ〜〜〜い」ウチもおるで〜
モトコを見つけるや、こちらに手を振るアカネ

 シノブ「ちょっと!恥ずかしいですわよ!」


 モトコ(あれ?、淡路(アカネ)先輩もいる)


改札を通り、合流。


 モトコ「・・・お待たせしました!」
 シノブ「時間丁度、流石ですわ」

 アカネ「シノブは1分遅れるごとに“1お怒り”溜まるからな、気ぃつけやw」
 シノブ「それはアカネさん限定です!」何です1お怒りって・・・

 モトコ「ハハ・・・(^^;)。
     淡路先輩も御一緒だったんですね」

 シノブ「いいえ、この人は先程偶然出くわしただけの・・」
 アカネ「んな殺生な!、ウチかて整備班やないの!!」

アカネは牛丼屋での昼食後、リサや突撃班の面々と別れた様子・・・。


 モトコ「はい(^^)、整備班の3人でお買い物しましょう!」
 アカネ「ほれ見ぃ!、モトコはえぇ〜娘やぁ〜」

 シノブ「仕方ありませんわね」
 モトコ「フフ(^v^)」

 アカネ「よっしゃほな!、レッツゴー三匹やな!」
 モトコ「おー!」(^0^)○
 シノブ「私をその妙なカウントに含めないで下さる・・・;」


やいのやいのと騒がしく歩き出す3人・・・



 モトコ(・・・・・・・・キリア先生、ありがとうございます。)




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by: へろ
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