彩花の騎士
ストーリー 51



―――――――・・・・・・・6年半前。


コウ、小学4年生の秋・・・・・



『小学校:放課後』


 コウ(・・うわ〜ヨッシーのクラス、“おわりの会”長引いてるな〜・・・;)


幼馴染のヨシコと一緒に下校しようと、彼女のクラスを覗きに来たものの
どうやらホームルームが長引いているようで・・・


 コウ(・・・・・よし!)

待つと決め。

そのまま廊下に座り、ランドセルを机代わりに
宿題の漢字ドリルをはじめるコウ・・・


 コウのクラス担任「コラ美里!、宿題は家でやるから宿題なんだ!」
 コウ「あわわごめんなさい;」

しかし早々に廊下を通りかかった先生に怒られる

 コウのクラス担任「なんだ、友達でも待ってるのか?」
 コウ「はい」

 担任「今日は“ムゥリアン予報”が高いから早く下校するんだぞ」
 コウ「は、はい!;」




・・・




 ヨシコ「―――・・・でさ、バカな男子のせいでこっちはとばっちりよ」
 コウ「とば?・・・ヨッシーって難しい言葉たまに使うよね」

 ヨシコ「そぉ?、それよりもさ!、ムゥリアンとか超気にならない!」今日予報高いし
 コウ「えぇ〜ヤダよ〜;」


そんな会話をしながら、いつもの下校風景・・・


 ヨシコ「・・・であの山の上にできた女子高さ!
     ムゥリアンと戦う人達がいるの知ってた!」
 コウ「騎士様って言うんでしょ?」

 ヨシコ「そーそー!、前テレビに出てた!!」インタビュー受けてた
 コウ「それ見たよ!、15ch(ケーブルテレビ)でしょ!!」チャンネル変えてる途中で
 ヨシコ「アタシん家ちょっと映ったし!!(>▽<)」
 コウ「ホント!?」
 ヨシコ「何気に有名らしいよ!、あの女子高!
     なんか校長先生が有名人なんだってお母さん言ってたもん!!」
 コウ「えぇー!」


こんな話の流れから、ちょっとした興味本意が勝り
決められた絶対のルールを破ってしまう事が・・・・・子供にはある。





・・・・・





ウゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!・・・




下校道中・・・彩花街に響き渡る、ムゥリアン出現を知らせるサイレン・・・


避難義務に従い、皆がシェルターに向かう中

コウとヨシコは・・・
見たいという欲求と、悪い事をしているという謎の快感、
ドキドキとワクワクが入り混じった高揚した気持ちで

近くの公園の草むらに身を隠す・・・。







―――――・・・・・どれぐらいの時間が経ったのだろうか・・・






気が付けば、それまで街に溢れていた音が消えている・・・・・


 コウ「・・・・・」
 ヨシコ「・・・・・」




 コウ「・・・し、静かだね・・・;」
 ヨシコ「・・う、うん・・・・・」



先ほどまで多くの人や車が移動していた音との差もあってか
一層静けさを感じる・・・


 コウ「・・・・・」
 ヨシコ「・・・・・」


 コウ「・・・・・ゴクッ・・」

緊張で飲み込む唾の音もハッキリわかる・・・


 ヨシコ「・・・で、出てみよっか?;」
 コウ「う、うん・・・」


恐る恐る、公園から道路に出る2人・・・






・・・・・・・・・・街を包む完全な静寂。






いつもゴミ捨て場の上の電線にとまっているカラスさえいない・・・

 コウ「・・・・・」
 ヨシコ「・・・・・」



その光景、状況に
先ほどまで感じていたドキドキとはまったく別のドキドキが、急激に押し寄せる・・・



“不安”・・・・・そこから来る恐怖。



 アナウンス「―――・・・ムゥリアンの進路が彩花街に確定されました」



静寂の中、響き渡る街内アナウンスの言葉が
2人に事の重大さを気付かせる・・・


 アナウンス「避難がおすみでない方は、速やかに・・・―――――」


 アナウンス「侵入予想時刻は・・・―――――」


繰り返されるアナウンスに、

その場で顔を真っ青にして立ち尽くしていたコウとヨシコは
無言で、無意識に・・


お互いの手を握り合う・・・。


瞬間、顔を見合わせる・・・

 コウ「ま、まだ大丈夫だよね?・・・ハハ;」
恐怖心を誤魔化すか弱い笑い

 ヨシコ「あ、当ったり前じゃん!;w」
ニシシとこちらも強がって応える

 コウ「・・ここだとどこのシェルターが一番近い・・かな?」
 ヨシコ「学校・・・・・・・んーん・・公民館・・・・・公民館よ!」
 コウ「う、うん!、行こう!!」


握り合った手に力を込め、走り出す2人・・・・・








・・・・・・・








一方その頃・・・『私立三枝女学園:騎士の館(通信室)』。


この時代の騎士様達が、既に活動を開始・・・

 通信班員A「―――・・・え!?;、まだ子供が残っています!」


モニターに映し出される、手を繋いで走るコウとヨシコの姿・・・

 通信班員B「5区か・・・。今の配置からは少し遠いわね・・・」

ガガッ・・
 無線音声『私が行くわ』

 通信班員B「待って、車両班を向かわせるわ」
 無線音声『いや、5区は路地が多い。バトルスーツで走った方が結果早い』

 通信班員B「・・それもそうね・・・団長、指示をお願いします」

 団長無線『3号車、11区と6区の境で“マコト”を拾って、
       大通り経由で5区まで運んでちょうだい。後は貴方に任せるわ、マコト』
 3号車運転手『了解しました』

 無線音声『良い判断だね、団長♪』
 団長無線『はいはい』


 通信班員A「・・・11区、北西の森に敵が侵入しました!」


 団長無線『狙撃班!』
 狙撃班員『了解。目標を確認、攻撃を開始します・・・―――――』









・・・・・・・









 コウ「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」
 ヨシコ「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」

脇腹に痛みを感じながらも、とにかく走り続ける2人・・・

しかし子供の足、ランドセルも背負っているのなら尚更遅い


 コウ「っ!?」
そして足がもつれ転ぶ・・・

 ヨシコ「だ、大丈夫!?」
 コウ「う、うん・・・」

膝を見ると痛々しく擦りむき、じわっ・・と血が滲む・・・

時間差で、痛みが押し寄せはじめた・・・その時




ドォォォォォーーーン!!
ダダダダダ・・!、キューーーン!!



遠くからだが、静寂を切り裂く音がハッキリと聞こえてきた。

それが何の音なのか、2人にも直ぐに理解できた。


 ヨシコ「・・た、戦ってるんだ・・・・・;」
 コウ「・・・う、うん・・・」

同時に、ここで座っている場合でも、泣いている場合でもないという事も・・・

 ヨシコ「・・・立てる?」
 コウ「うん、大丈夫・・・」

繋いだままの手に力を入れ、ヨシコがコウを引っ張り起す。


 コウ「・・・い、行こう!」
痛みと恐怖で足が震えていても、小さく踏み出すその足・・・





次の瞬間・・・

 コウ&ヨシコ「!?!!!」



道沿いの民家の屋根から、2人の目の前に何かが勢いよく降りてくる・・・!!


 コウ&ヨシコ「・・・・・」
この状況下、そんなものは敵のムゥリアンしかいないと
言葉すら出せずに、腰を抜かしてペタッ・・・と崩れるように同時に尻餅をつくコウとヨシコ・・・



だがお互いの握った手だけは放さない・・・。




降りて来たそれは、ムクリと体勢を整える・・・

 コウ&ヨシコ「・・・・・」


人の形・・・プロテクターとメットで身を包み、肩には突撃銃を掛けている・・・。


 ???「・・・保護対象を確認」
 ???「―――――――・・・了解。」

その“バトルスーツの者”はそう言うと、こちらに近づいてくる・・・


 ???「・・・ぁ」
と、コウとヨシコが震えている事に気付く・・・。



 ???「・・・そうよね」
そしてメットを脱ぐ・・・・・


淡い紫色のストレートヘアーを結んで束ねている、お姉さんが姿を現す。


そのお姉さんのシュッとした顔立ち、勇ましい雰囲気を纏った出で立ちは
綺麗という表現より、カッコイイという表現が間違いなく正しいであろう・・・



 コウ&ヨシコ「・・・・・」
恐怖から一転、思わず見惚れるコウとヨシコの脳裏に浮かんだ相手を示す言葉は・・

・・・・・騎士様!!




こちらに歩み寄って来たその騎士様は、

さらに2人の警戒心をとくために、片膝を地面につけて腰を下ろし
コウ達と同じ目線になり、微笑んで話し掛けてくる・・・

 騎士様「・・・安心して(^^)」

 コウ&ヨシコ「!」コクコク!!
とっさに言葉が出ず、強く2度頷く・・・


 騎士様「アラ?、怪我しちゃったのね?」
コウの擦りむいた膝に気付く

 コウ「あ、えっと・・」ドキドキ

 騎士様「もう少し我慢できる?」
 コウ「・・は・・はい!」

 騎士様「うん、偉いぞ(^^)」
優しくコウの頭を撫でる

 コウ「・・・・・/////」ドキドキ


 騎士様「貴方は?」
 ヨシコ「だ、大丈夫です!」ドキドキ

 騎士様「良い返事ね(^^)」

その騎士様の存在に、違う意味で緊張するコウとヨシコ・・・


 騎士様「・・・じゃあシェルターまで行きましょう!」(^^)おー!ってねw
見た目の勇ましい雰囲気に反し、どこか馴染み易い気さくさ


 コウ&ヨシコ「!?わっ!?!;」

そして2人を左右それぞれの腕で抱え上げる騎士様・・・

バトルスーツによる身体能力強化を知らないコウ達には
それがスーパーマン、いやスーパーガールのように映ったのは間違いない。

 騎士様「しっかりつかまってて☆。飛ばすよ〜♪」






・・・・・






『公民館』。

 公民館職員「ご苦労様です」
 騎士様「この娘、膝を擦りむいちゃってるので手当て宜しくお願いします」

騎士様はコウとヨシコを預け、すぐさま出発しようと・・・


 コウ&ヨシコ「・・・あ、ありがとうございます!!」

深く頭を下げる2人に、
去り際、少しおどけたようにウィンクをしながら、手を振って応える騎士様・・・


コウ達にはそれが、“何も心配ない”というメッセージに聞こえた・・・・・。






 コウ「―――・・・カッコイイーーーーー!!!」(>▽<)ジタバタ
 ヨシコ「ね!、騎士様マジヤバイ!、最高!!!」くぅーーー!
 コウ「騎士様最高!!!」
 ヨシコ「うん!、騎士様最高!!!」
やいのやいの

 公民館職員「ほ、ほら;、お嬢ちゃん達・・・
         早くシェルターに入ろうね」おじさん超恐くてガクブルだよ;

 コウ「騎士様最高!!!」(>▽<)イェイ!
 ヨシコ「騎士様最高!!!」(>▽<)イェイ!
テンションMAXな2人・・・






・・・・・・・この後、お母さんと先生にすんんんんんごい怒られました。











・・・・・・・・・・――――――――――











・・・・・現在。


早朝、コウの部屋・・・

 コウ「―――――・・・・・!!」

パチッ!っと眠気が一瞬で吹き飛んだように目が覚める・・・

 コウ(・・・・・懐かしいこと思い出しちゃったな・・・・・・・)

そのままベッドに入ったまま天井を眺め、
今見た夢がキッカケで、子供の頃の記憶が呼び起こされる・・・。



時計を見ると、普段ミーティングで起きる時間とほぼ変わらず
目覚ましアラームも無しに目が覚めたことに

自分の生活リズムが騎士様仕様になっている事が少し嬉しい・・・。



 コウ「・・・・・」
ベッドから出、メガネをかける・・・

壁に掛けたコルクボードに目線を向けると

以前、ヨシコにコピーしてもらった
6年半前の“三枝の友”(校内新聞)の記事がある・・・

自分達を助けた当時の騎士様の記事だ。


 コウ(・・・・・『渡瀬マコト』さん・・・・・
    ・・・私が騎士様に憧れるキッカケになった人・・・・・)





・・・・・・





夜明けの時間が一気に早くなる季節・・・

清々しいまでの青空の朝・・・連休2日目。

街はまだ静かで、鳥の鳴き声がよく聞こえる・・・



そこには、自主的にジョギングをするコウの姿があった。




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by: へろ
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