彩花の騎士
ストーリー 49

同休日。

正午過ぎ・・・『叶街』。

駅近くの雑居ビルから出てくる、シノブの姿・・・・・




建物の敷地と、歩道の境目で立ち止まり・・・そのまま下を向く・・・・・




しばし停止。




そして・・・

 シノブ「・・・ムフ・・・・・ムフフ・・・・・」

怪しく笑いながら、顔をゆっくり上げる・・・


と、偶然通りかかった通行人と目が合う・・

 通行人「ビクッ!?;」恐っ;


 シノブ「っ!?」
ハッ!と我に返り、

顔を赤らめながら、その場から足早に移動・・・



 シノブ(・・い、いけませんわ;
     あまりにもテストの出来が完璧すぎて、つい・・・;)

 シノブ(・・・しかしこれでまた、新たな資格が私の経歴に!♪)


資格取得試験を終え、そのかなりの手応えに
歩くテンポも軽やかになるシノブ・・・


 シノブ「♪〜」
突如、道端で回転ステップ

 通行人「ビクッ!?;」




 シノブ(・・そうだわ!、こんな日には自分に御褒美が必要ね♪。
     それから本屋で次の・・・)
再び回転ステップ・・



ギギギィィィーーーーーーーー!!!!!



瞬間、シノブの思考を強制停止させる
自転車の凄まじいブレーキ音が、後方から鳴り響く・・・

 ???「どアホぅ!!、道の真ん中でくるくる回るなっ!!!」

その音と共に、聞き覚えのある声の関西弁が
シノブに降り掛かる・・



振り返ると・・・案の定、自転車に乗ったアカネの姿。



 シノブ「っ!?、あ、アカネさん!?」げっ;
 アカネ「!、お前かシノブぅ!!」今げっ言うたな

 アカネ「お前もぉちょっとでひくとこやったぞ!!」
 シノブ「はぁー!?、自転車は車道を走りなさいよ!!」

 アカネ「くるくる回っとったお前が言うな!」
 シノブ「回ってなんかいませんわよ!!」

 アカネ「回っとったがな!」
 シノブ「回ってません!!」

 アカネ「回っとったわ!、2000回転ぐらい回っとったわ!!」
 シノブ「なっ!?;、ちょっと1、2回ぐらいでしょ!!」

 アカネ「ほれみぃ!」
 シノブ「ぐぬぬ・・・!」

 通行人「何だ何だ?」
 通行人「ザワザワ・・・」

2人の口喧嘩に、通行人達が野次馬化しはじめる・・・。


 シノブ「・・・・・;」
 アカネ「・・・・・;」


 アカネ「・・・・・場所変えるか」
 シノブ「・・・そうですわね;、その意見には賛成しますわ」





・・・・・





 呼び子「空室ありま〜す、ただいま待ち時間なしでご利用できま〜す」

 アカネ「お!。・・個室やし丁度えぇか・・・」
 シノブ「・・・は?」



・・・



 アカネ「2人、2時間で」
 シノブ「ちょ、ちょっとアカネさん?;」



・・・



行き着いたのはカラオケボックスの個室。

 シノブ「―――・・で!、どうして貴方とカラオケに来てますのっ!!」
 アカネ「アホか!、ここならナンボでも言い合いできるやろ!」

 シノブ「うっ;・・・そ、それもそうですわね・・・・・;」貴方にしては冴えてますわね



 アカネ「・・だいたいさっきのはな〜・・・」
と、口では言いながらも・・・タッチパネルのリモコンを取るアカネ・・・

 アカネ「(・・あの曲、なんちゅ〜タイトルやったっけ・・・)」ボソボソ
そして曲検索・・・



 シノブ「・・・・・何してますの?;」

 アカネ「見た解るやろ、曲探しとんねん・・」

 シノブ「アカネさん!!」
 アカネ「解ってるって、続きやろ?
     ちょお待って・・曲だけ入れさせて」


 シノブ「・・・」
 アカネ「せっかくお金払ってんねんから、歌わな損や」

 シノブ「・・・!!」イライラムッカーーーーー!!=3


 アカネ「・・お!、これや」ピッっとな


シノブの怒りなど知った事か、軽快なポップス曲が流れ始める・・・


 アカネ「♪フヮ!フヮ!フヮ!フヮ!♪」

使い捨てのお手拭きを手に取り
それをクルクル回しながら、イントロから全開のアカネ・・・


 アカネ「♪君の〜・・♪」


ガチャッ・・


歌い出した瞬間、部屋を退出しようとするシノブ

 アカネ「っ!?、待って待って!!;」
マイクを通して声が廊下にもれる


 シノブ「私、帰らせてもらいます!」


とっさにマイクをソファーの上に放り投げ、シノブの腕を掴むアカネ
 アカネ「んなこと言わんと!、な!」

 シノブ「放して下さい」
 アカネ「分かった!悪かった!ウチが悪かった!!(>□<;)」


そんな様子を、通りすがりの客が見かけ、クスクスと笑われる・・
 客A「なにアレ?、夫婦喧嘩みたいw」
 客B「しっ!、聞こえるわよ!、クスクスw」


それに恥ずかしさを覚えたシノブは、
隠れる意味で、仕方なく部屋に戻る・・・・・




 アカネ「・・・・・;」
とりあえず、場の空気に全くそぐわないノリノリな曲が流れたままなので
それを止める・・・

 シノブ「・・・」
ムスッとした表情で、ソファーに座るシノブ



 アカネ「・・・シノブさん?;」

 シノブ「・・・」


 アカネ「・・・何か飲む?;、あそれとも何か注文する?」

 シノブ「アカネさん!!」バンッ!
 アカネ「はぃぃぃ!!;」

 シノブ「私は貴方のそういう自分勝手なところに怒ってるんです!!」
 アカネ「ですよね〜(^▽^;)」お手手スリスリ

 シノブ「いいですか!だいたい貴方は・・―――」





と、くどくど10分ほど・・・・・・・






 アカネ(・・・・・アレ?、なんでウチ怒られとんねや?;)


もはやこの2人にとって、口喧嘩など日常的なコミュニケーションの一つであり
最初の発端となった出来事が、途中で行方不明になる事など当たり前なのだ。

“ケンカするほど仲が良い”などと言うが・・・

この2人に関しては“ケンカばかりしてるのに何故か仲が良い”という不思議な間柄。


故に・・・・・




 モニター画面「皆さんこんにちわ〜、『なないろスター7』で〜す」
 モニター画面「4月28日!、私達の新曲、ポーラスターに願いを・・・が発売されました〜」
 モニター画面「わ〜〜〜!!」パチパチパチ

放置したままのモニター画面に、アイドルの告知映像が流れる・・・

 アカネ(お!、ななスタやっぱ可愛いな〜)
シノブのお説教に飽きはじめたアカネが、画面に目線を向ける・・・


 シノブ「―――・・ですから・・・」

 アカネ「なぁシノブ!、お昼食べた?」
 シノブ「は?、まだですけど・・・」

 アカネ「ここらでいったん休憩せぇへん?」



 シノブ「・・・・・」



 シノブ「・・・ま、まぁ・・いいでしょう・・・」


・・・お互いの扱い方や、切り替えのタイミングが、
何となく、本能的に解っているのである。







・・・・・







 アカネ「―――・・うまっ!?、これめっちゃ美味いで!!」
昼食を終え、デザートのイチゴパフェを食べつつ・・

 シノブ「・・・そうですか」
こちらはデザートは頼まず、食べ終えた食器を綺麗に重ねていく・・・

 アカネ「GW限定の特製イチゴパフェやで!
     何でシノブ頼まんかってん!!」

 シノブ「想定外の出費ですので」このカラオケが


 アカネ「しゃ〜ないな〜・・・ホレ」

 シノブ「?」
視線を、食器からアカネの方に向けると・・・


生クリーム付きのイチゴを乗せたスプーンを、こちらに差し出している


 シノブ「はい?」

 アカネ「ホレあぁ〜〜〜ん・・」

 シノブ「んなっ!?!;///////」


 アカネ「騙された思て、なw」口あけ



 シノブ「・・・/////」
    (・・こ、これは一体どうすれば???;
     断る理由もありませんし、でもだからといって同じスプーンで・・・)


 アカネ「あぁ〜〜〜ん・・」


 シノブ(こんな何も考えていないアカネさんの行動に動揺するなど
     私が負けを認めてしまうようなもの!!)


 アカネ「はよはよ」


 シノブ(・・うぐぐ・・・;)


 アカネ「はよて」


 シノブ(・・・え、えぇ〜い!、ままよ!!)(;>□<)
    「あ、あぁ〜ん・・・/////」




ぱくっ・・・




 シノブ(・・・あ、おいしい・・・♪)

 アカネ「どや、うまいやろ?w」

 シノブ「べ、別に貴方が作ったわけじゃないでしょう・・・」
 アカネ「そりゃそうや、カッカッカッw」

そう笑いながら、シノブが口に含んだスプーンで
そのまま次の一口を頬張るアカネ・・・


 シノブ(うぅ・・本当にこの人は!!)私の緊張を返しなさい!!

そんな事を思うと、無性に腹が立ち・・
シノブはテーブルの隅に置いたままのリモコンを奪うように取る

 アカネ「お、何か歌うんか?」ようやく
 シノブ「今日は発散させていただきます!!」

 アカネ「そぅそぅ、それがカラオケっちゅ〜もんや」うんうん
 シノブ「黙らっしゃい!、原因は貴方なんですからね!!」

 アカネ「えぇ?;、ウチ???」なんで?










・・・・・・・―――










同カラオケボックス内、少し離れた『別室』。


部屋の明かりを消し、冷房を全開に効かせた妖しい個室・・・

テーブルの上のコップには、少量のドライアイスが入れられ
モクモクと・・・気持ち程度のしょぼい煙りを出している・・・。


 イチル「・・・・・虚無の世界、完成・・・・・フフッ」

この部屋の状況を作った事に御満悦な様子のイチルの姿。


次に彼女はリモコンを取ると、“乱れ雪月花”という名のアーティストを検索し
ズラリと表示された曲を吟味・・・

こだわりの曲順があるのだろう・・・それらを5つほど入れた後、

履いていたショートブーツを脱ぎ、ソファーの上に立つ。

そして、マイクを持った右手を天に掲げ、左手で顔を覆う・・・・・


 イチル「・・・・・」


1曲目のピアノのイントロが流れ出すと、ゆっくりとその姿勢を崩していく・・・

 イチル「・・・今宵、破滅への序曲、甘美なる新世界へのはじまり・・・
     破壊と創造のその瞬間、アダムとイヴの子らよ
     そのイノセントな御霊を我に捧げよ・・・!」

意味不明な前口上を言い終わると・・・
デデデーン!!と
ピアノ前奏から、タイミング良くヴィジュアル系ロックなサウンドに切り変わる・・・


さぁ、世界観に酔いに酔った宴(一人カラオケ)のはじまりだ・・・・・!!。










・・・・・・・―――










そんな休日をそれぞれ楽しんでいる少女達・・・・・

一方では・・・


【三枝女学園:校舎 3階「美術室」】


 チカ「―――・・・くっそぉ〜〜〜、何でせっかくの休みにこんな・・・
    昨日の(実地)訓練よかったから補習はなしってのにさ〜・・・」

ブツブツ言いながら、
三脚イーゼルに置いた画用紙に、鉛筆を走らせるチカ・・・


 イサミ「黙って描け」

チカの正面にはイサミが座り、同じ様に画用紙に鉛筆を走らせる・・・


お互いの似顔絵を描いているようだ。



 ミヨ「・・・・・」

その2人とは別に、窓際に持っていったイスに座り
春の陽気を受けながら、静かに文庫本を読んでいるミヨの姿もある・・・。






・・・・・話は少し溯って、連休に入る前の“1年B組”の授業 『教科:美術』。

 美術の先生「では今日は二人一組になって、お互いの似顔絵を描いてもらいます。
         好きな人とペアを組んでちょうだい」

 チカ「よっしミヨ〜・・」
と、チカが早々にミヨの方を見ると・・

ミヨの回りを既に5、6人の生徒達が取り囲んでいる。

 生徒A「ミヨさん!、一緒に描きましょう!」
 生徒B「私とお願いします!」
 生徒C「いえ私と!」
 生徒D「私とよ!、ね!」
 生徒E「貴方の全てを描かせて!、合法的に!」
 生徒F「ミヨさんとヌードデッサンきぼんぬ!!」

 ミヨ「え、えっとぉ・・・;。じゃ、じゃあ・・ジャンケンで・・いいかな?(^^;)」
   (何か最後の方スゴイこと言ってた娘がいた気が・・・;)


ミヨはその人当りの良い性格と、健全ナチュラル美人で高身長な抜群のスタイル、
さらに文武両道の優等生であり、騎士様という・・・四拍子揃った逸材!

そう、モテるのだ!。1年生騎士様のモテ頭、筆頭なのだ!。



それに比べ、チカやイサミは“騎士様としての”人気こそあれど、
その制御不能な自由な性格や、近寄り難いオーラを常に放っているため

騎士様ブランドが逆に一般生徒との壁となり、
気軽に絡めず浮く事がたまにある・・・・・

特にこの手の一対一での課題やイベントがそうだ。


結局、溢れたチカとイサミが仕方なくペアとなったのだが・・・


この2人がそれに至る経緯にゴタゴタと、
無駄な時間を使ってしまったのは言うまでもない。


そんなこんなで・・・・・現在・・・





授業時間中に終われなかった似顔絵の課題を
こうして休日を潰して取り組んでいるチカとイサミ・・・

そして付き添い(お目付け役)のミヨ。


 チカ「あ、動くなよ〜」
 イサミ「貴様がな」イラッ



 ミヨ(・・・・・)
読んでいる本が一区切りしたのか、栞を挟み・・・

美術室の時計に目を向けるミヨ

 ミヨ(・・・そろそろ30分か・・・)

と、文庫本をすぐ横の棚の上に置いて、立ち上がり・・・


 ミヨ(・・・・・どれどれ・・・)
進行状況の確認にと、チカの絵を後ろから覗く・・・



 ミヨ「・・・・・相変らずそのタッチなのね(^^;)」

チカの描く、男子小学生が自由帳に描くヒーロー漫画のようなタッチに
苦笑いのミヨ

 チカ「へへ、上手いっしょ?」ニヤリ
 ミヨ「ま、まぁ・・・好きな人は好きなんじゃない?;」色々角張ってるわね;




 ミヨ(・・・石橋さんは・・・・・?)
回り込んで、こちらも確認・・・



 ミヨ「っ!?。・・・ゴホッゴホッ!!」
イサミの絵を見て、思わず咽るミヨ

 イサミ「ん?」

 ミヨ「す、凄いね・・・;」

 イサミ「解るか?、この良さが」
得意げな顔のイサミ



そこに画かれた似顔絵は・・・“写楽”を彷彿とするもの。



あの独特な受け口の輪郭と、寄り目、手の配置・・・


 ミヨ「・・一周回ってある意味、前衛的というか・・・;」

 イサミ「フフ・・」
一丁前に鉛筆を縦に構え、片目を閉じて自らの絵を見るイサミ


 チカ「なになに?」
チカも興味津々でやって来るが・・・



 チカ「!!、何これ!?、ゴエモンじゃ〜ん!!www」ギャハハ!!www
見た瞬間に、そう口走って大笑い



 イサミ「ゴエ?、何だそれは!!」ムッ
 チカ「ギャハハ!w、これアタシぃ?、ゴエモン過ぎるぅー!!」ゲラゲラwww

 イサミ「だから何なのだそれはっ!!」
 チカ「ひぃ〜〜〜www」

 ミヨ(・・・ば、バカチカ;)



言葉の意味は分からないが、誉められていない事は容易に想像がつくイサミは
貶し返してやろうとばかりに席を立ち、チカが描いた絵を覗きに向かう・・・




 イサミ「・・・・・っ!?!」

そしてチカが描いた自分の似顔絵を見て、言葉を失う・・・・・




 イサミ(・・・なんだ・・・と・・・?;)



 イサミ(・・・・・二階堂チカ・・・貴様・・・・・)


 イサミ(・・・貴様の目には・・・私は・・・私は・・・・・こんなにも・・・・・)



 イサミ(こんなにも勇ましく映っていたのかっ!!!!!)稲妻ズギャーーーン!!



男子小学生が自由帳に描くヒーロー漫画のようなタッチですので。



 イサミ(なんと猛々しく力強い・・・気迫まで感じるぞっ!!)






 チカ「・・はぁ〜〜〜面白かったw。・・・ん?」
一笑いし、ようやく自分の絵を見ているイサミに気付く・・・

 イサミ「・・・」
 チカ「どーよアタシの絵は!、カッコイイっしょ!!」

 ミヨ(うわ〜・・・またもめるんじゃ・・・;)

 イサミ「・・・・・・」
 チカ「・・・?」

チカは何も応えないイサミを不思議に思い、横まで行って
自分の描いた絵を一緒に見る・・・

 チカ「・・・どったの?」

 イサミ「・・・二階堂チカ・・・・・」
 チカ「?」

 イサミ「貴様の敬意、しかと受け止めたぞ・・・」

 チカ「ナニソレ?」(・v・)ポカ〜ン

 ミヨ(・・・あ、アレ?、もしかして気に入ったの???;、チカの絵・・・)






・・・






 イサミ&チカ「―――・・・失礼しました・・」

課題を無事出し終え、職員室から出てくる2人・・・


 ミヨ「2人共お疲れ様」

 イサミ「此花ミヨ、付き合わせて愁傷な事をした。礼を言う」
 ミヨ「気にしないで(^^)
    ちゃんと見とかないと何するか分からないのが一人いるからねw」
 イサミ「フフ・・・」

 チカ「何で2人してアタシ見んのさ!!」プンスカピー=3

 ミヨ「ハハw。・・・で、この後2人は予定あるの?」

 チカ「ご飯!」
 イサミ「帰宅するだけだが・・・。いや、騎士の館で一汗流すのも有りか・・・」

 ミヨ「昨日の夜さ、ウチのお母さんが苺大福作り過ぎちゃってさ;
    良かったら食べに来ない?」日持ちするものじゃないから・・・

 チカ「マジかぁぁぁーーー!!、行く行く!!」


 イサミ「・・・私もいいのか?」和菓子は好きだ


 ミヨ「えぇ、もちろん(^^)」



前の「ストーリー 48」へ  メインに戻る  次の「ストーリー 50」へ

by: へろ
このコーナーの全ての情報、画像を無断転載することを禁じます
このコーナーは、個人が趣味で作っているもので
各作品の関係者さま、企業さま、出版社さまとは一切関係ありません

inserted by FC2 system