彩花の騎士
ストーリー 46

彩花街の東面あたりと隣接する隣の市、『三幸市』。

イサミの自宅や、彼女やユミが中学時代に通った“お嬢様学校”のある区域・・
いわゆる高級住宅街。

山の手の場所に建ち並ぶ、その立派な家々を抜け
さらに先に進むと、木々の量が増えてくる・・・

遠目では林に見えるその場所は、塀で囲まれた私有地だ。

ちょっとした乗物が必要になりそうなぐらいの広すぎる庭・・

そこに建つは、家ではなく御邸・・・・・



「真矢ユミ」の実家である。



彼女は正真正銘のお嬢様。



代々続く、真矢家の御令嬢。



そんなユミの休日の過ごし方は、優雅なティータイム・・・・・


ではない。





――・・・ドシュッ!!!


的のど真ん中を見事に射貫く矢・・

弓道衣に袴姿のユミが放ったそれは、
“凄い”という表現ではなく、もはや“美しい”の域にある。


広すぎる庭の一角に設けられた、この『弓道場』が表す通り
弓道は、真矢家の伝統であり、嗜みだ。


 ユミ「・・・」

礼の動作までを含め、その凛とした様に
ユミの後ろで、それを正座して見物している者達も見惚れている・・・

 カヲル「・・実にスマートだ・・・」
 マキ「うむ・・」
 シイナ「ホント絵になるわね」




 ユミ「・・・・・お待たせ(^^)」
一連の流れを終えると、ユミは振り返ってカヲル達3人の方を見る・・
ほんのつい一瞬前の研ぎ澄まされた空気は消え、いつもの温厚な笑顔で

 ユミ「付き合わせてごめんなさいね。
    これをしないと、自分の中でしっくりこなくて・・・」

 カヲル「いいさ、美しいものを見るのは
     それだけで満たされ高ぶるというもの・・・」フッ・・
 シイナ「早速出たわね;」ナルシスト


 シイナ「でもいつも思うけど、大会とか出ないの勿体無くない?」
 ユミ「弓道に関しては、そういうのを嫌う家だから・・(^^;)」

 シイナ「弓道部も席だけ置いてるって感じだもんねw」


 マキ「武道とは己を磨くものであって、賞を取るためのものではない」

 カヲル「美にも通じるものがあるね・・フフン」

 シイナ「よくもまぁアンタ達、
     そんなカッコ良さげな台詞がペラペラ出てくるわね〜;」何者よ

 カヲル「僕としては、日常会話のつもりなんだけど・・・」フッ
 シイナ「はいはい;」



と・・・


着物を着た、背の低いタマネギ頭の老女が、弓道場にやってくる・・

 老女「・・ユミお嬢様、お客様が参られましたよ」

 ユミ「ありがとう婆や、直ぐに行くので和室の客間に御通しして」
 婆や「かしこまりました」ペコリ

 シイナ「おケイ達も来たみたいね」




・・・




『真矢邸:客間・和室』

綺麗な薄緑の畳が敷き詰められた和室。
20人ぐらいは優々と宴会ができるほどの広さだ・・

壁側には当然のように、高価そうな壷、掛け軸、鎧兜が飾られており

部屋から縁側を挟んだ先には、美しい日本庭園が広がっている・・・。


 婆や「・・どうぞこちらへ」

そこに通されたのは・・・
ケイ、ナギサ、アリサの残りの3年生達。


 婆や「間も無くユミお嬢様達も来られますので・・」

テキパキと、お茶と御茶菓子を机の上に用意して
一礼し、部屋を後にする婆や・・・。



 アリサ「・・・ほん〜〜と、
     ここに来ると、いつも違う世界に迷い込んだみたいになるわね・・」
そう言いながら、縁側から日本庭園を眺める・・・

 ナギサ「この鎧・・・曰く付きじゃないのかしら・・・・・」
こちらは鎧兜をまじまじと観察・・

 ケイ「婆やさんにはっ倒されるわよ、ナギサ」
茶菓子の包み紙をあけ、一口サイズの饅頭をパクリ・・


・・・


そこに、私服に着替えたユミが
シイナ、カヲル、マキを連れ、やって来る・・・

 ユミ「・・みんな揃ったわね」



3年生の騎士様達、7人が机を囲んで座る。


 ユミ「・・では早速だけど・・
    昨日の実地訓練で見えた、今後の課題や訓練についての・・・―――――」





「三枝女子 防衛団」、通称「騎士様」の運営は
生徒達の自主性を尊重、重んじる習わしだ・・・。

教師のサポートももちろんあるが・・

基本は、先代が行って来た事をそれぞれがそれぞれで受け取り・・
時の3年生(班長)達が中心となり、自分達で築き上げていくスタイル。




3年生達の連休初日は、そんな真面目な“作戦会議”ではじまる。






・・・・・






防衛団全体、各班、連携など
今後の方針やスケジュールを、皆で意見を出し合い・・

ユミがそれら案を纏め、シイナがノートパソコンに簡潔に打ち込んでいく・・・。




そんなこんなで1時間ほどが過ぎた頃・・・



作戦会議に少々飽きてきたアリサが、頬杖をつきながら呟く・・・

 アリサ「・・・こうやって見てるとさ
     やっぱユミとシーナって、社長と秘書みたいよね」
 ケイ「アハハ、確かにw」

 ユミ「アリサ、おケイ」
注意をするように名を呼ぶが・・

 ナギサ「普通に、隊長と参謀でいいんじゃない?」
続けざまにナギサが雑談に乗り・・

 マキ「・・否、将軍と軍師なり」
目を瞑り、腕を組んだマキも静かに乗る


 ユミ「もぉ〜・・マキまで・・・;」
 シイナ「ま、だいたい話も纏まったし・・この辺でいいんじゃない?w」



 カヲル「・・・・・」



 一同「・・・?」
普段なら、何かしらの気取った台詞をここで入れてくるカヲルが無言なことに
一同、不思議がる・・・



 ケイ「・・どした?」珍しい

 カヲル「・・・・・・・いや・・ちょっとね・・・・・」
不自然なすまし顔・・


 一同「・・・?」


 アリサ「何よぉ、教えなさいよぉ〜」
と、カヲルの横に座るアリサがゲシゲシと肘鉄を入れる・・


次の瞬間・・


 カヲル「っっっ!?!!?!!!!!!」
凄まじい電撃が走ったかのように、ビーンッ!!となり
声にならない悲鳴を上げるカヲル・・



そしてそのまま崩れ、しな・・っと正座から乙女座りへ移行・・・



 一同「・・・・・ぷっ!?・・・あはははははは!!www」
いつもクールなカヲルからは想像もできない姿に一同大笑い


どうやら足が痺れていたらしい・・

 カヲル「・・くっ・・・スマートな正座を追求した代償は大きかったか・・・」

 シイナ「なに言ってんのよぉ!w、アハハww」



 アリサ「どれどれぇ〜?vw」
ニマニマ顔のアリサは、身動きがとれないカヲルの足を突つこうと近づいてくる・・

 カヲル「よ、よせっ!?!」
醜態を晒したためなのか、頬がほのかに赤いカヲル・・
それに加えての脅え顔

 アリサ「あぁ〜んv、カヲル可愛いぃ〜!v」



ツンッ・・



 カヲル「ひゃんっ!!/////」
あまりにイメージとかけ離れた乙女声で、ビクンッ!!となる


 アリサ「!!!/////」ゾクゾクゾク!!

 アリサ「・・や、やだ・・・私・・このカヲル超好み!!!」これならもう一度付き合いたい!
カヲルのリアクションに興奮を隠せないアリサ

 カヲル「うっ・・くっ・・・・・はぁ・・はぁ・・・/////」
何故か頬をさらに赤く染め、息使いが荒くなる・・


 シイナ「受けのカヲルとか激レアすぎでしょw」


 ナギサ「いいわ2人共!!、もっとやりなさい!!!」ハァハァハァ!!=3
机の向かい側から身を乗り出し、その様子を煽るナギサ

 ケイ「ナギサ、舌と鼻血でてる;」落ち着きな



 アリサ「カ・ヲ・ルぅ〜〜〜♪」ウズウズ
指をわきわきしながら、さらに身を近づけてくる・・

 カヲル「よ、よせアリサ!、今のキミは美しくない!!;」
 アリサ「あら失礼ねvvv」ニタァ・・

 シイナ「うっわ〜・・・悪い顔のお姫様;」

我も参戦せり!と言わんばかりのナギサと、
手綱を握るようにナギサの服の裾を掴む、呆れ果てた顔のケイ・・




もはやこの場に作戦会議の空気など微塵もなく・・・



 ユミ「・・・・・(=v=;)」
 マキ「・・・・・ある意味、我々らしい良い休日ではないか・・」

 ユミ「・・そう・・・ね;」




 アリサ「イイ声で鳴きなさい!!!vvv」バッ!
 カヲル「や、やめっ!?!」



カコーーーーーン!・・・・・



日本庭園にある“ししおどし”が、美しい音色を響かせる・・・。









・・・・・・・









・・・夕方。

御邸の玄関から、帰り支度をしてゾロゾロと出てくる一同と、見送りのユミ・・

 シイナ「・・結構この時間でも明るくなってきたわね〜」
 ユミ「そうね・・気持ちの良い夕暮れ(^^)」

まだ残る日の光でも十分だが、真矢邸の庭は木々も多いため
敷地内の街灯に明かりが灯りはじめる・・・その様子は庭というより広い公園だ。

 アリサ「防犯とか維持費とか大変そ・・;」
 マキ「ふむ、罠の仕掛けがいがありそうだな・・・」

 アリサ「なにその忍者な思考;」曲者とか言うの?

 ナギサ「で捕まえた相手を荒縄で縛って拷問するんでしょ?・・クフフv」

 アリサ「恐いんですけど、この人達;」

ちょっとした事で話は膨れ脱線する・・・


 カヲル「・・じゃ、僕はそろそろ御いとまさせてもらうよ☆」
人差指と中指を立て、ピッと軽い敬礼のような動作とウィンク・・

 シイナ「カッコ付かないわね〜w」さっきの足痺れを見た後じゃ

 カヲル「キミ達の前だからこそ晒した醜態だ・・・
     友の証とでも受け止めてくれ」フッ

 シイナ「はいはい解ったわよ、王子様;」

 ユミ「クスクスw」

 ケイ「アハハw。・・じゃあアタイも車(軽トラ)回してくるわ」
と、車庫の方に向かうケイ、カヲル、シイナ・・



・・・



それぞれの帰宅の足(乗物)で、改めて玄関前に集合・・

 ユミ「・・みんな、あの件の連絡は各班でお願いね」
 シイナ「了解」
 カヲル「あぁ」
 マキ「うむ」
 ナギサ「えぇ」
 ケイ「あいよ」
 アリサ「はぁ〜いv」

何やら今回の作戦会議で決めた事を確認して、解散・・・・・



ケイの軽トラに一緒に乗る、アリサとナギサ。

カヲルが乗るのは、漆黒の車体に金色のラインが施されたスポーツバイク。

マキは私服の上にスポーツウェアを羽織り、そのフードを被り、
そのままジョギングをしながら帰る様子。



5人が出発するのを見届け・・・


 シイナ「・・それじゃ〜アタシも帰るわ」
ゴーグルの付いたヘルメットを被り、ベスパ風の原付バイクにまたがるシイナ

 ユミ「えぇ、今日はありがとう(^^)
    いつもアナタには感謝してるわ・・今回の集まりも・・」
 シイナ「無し無し、そういうのなしよw
     アタシがユミを支えたいだけだもん」

ハンドルに手を掛けるシイナの手の甲の上に、スッ・・と手をのせるユミ・・・

 ユミ「アリサ達がさ・・私達の事、社長と秘書とか・・・色々言ってたでしょ?」
 シイナ「・・・」

 ユミ「・・ちょっと嬉しかった・・・(^^)」

 シイナ「・・・実はアタシもw」

ニシッwっと、はにかんだシイナは・・
「もう行くね」という合図のように、バイクのエンジンをかける・・・



 シイナ「・・じゃね!」
 ユミ「えぇ・・(^^)」



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by: へろ
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