彩花の騎士
ストーリー 44

“無限演習”開始より70分・・・。


ビーーーーー!


終了の合図と共に、
“屋外用シミュレーター装置”が作り出していた、無数のムゥリアンが消える・・・。




 コウ「・・・ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・・・。
    ・・・・・・お・・終わった・・・・・ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・・・」

使うほどに疲労感となって現れるUE兵器の特性に、
森の中という悪路を走り回る疑似戦闘・・・

フルで1時間を超えるこの演習に、
一部のツワモノ以外は、流石に疲れを見せる・・

コウに至っては息切れ全開だ・・・・・。



だが・・

 アユミ「・・気を抜くのはまだ早いぞ」



そう、無限演習終了と同時に
『騎士の館』から下った先、“空地”にて危険度の高いムゥリアンが出現するのだ・・

このボスキャラを、時間制限付きで殲滅するという・・
実地訓練のラストミッションが残されている。





・・・





『空地』。
防護・防音壁でぐるりと囲まれた、
グランドが3つは十分に入る広さの空地・・・

地面の整備などは特にされておらず、石ころや雑草などがそのまま放置され
ディアースの操縦訓練で付いたと思しき大きな足跡や、浅いクレーターなども見られる・・・。


まさに“荒野”といったその場所に・・


ブンッ・・と、
屋外用シミュレーター装置が、疑似ムゥリアンを作り出す・・・


体長約7m・・・大きな一つ目を持つ、巨大ゲジゲジ型ムゥリアン『ゲジム』。
その数、3体。


うねうねと・・気味の悪い、波のように連続した足の動きで
空地の壁(防衛限界ライン)に向かって侵攻を開始する・・・。





しかし前線組の面々は、『北側の森』演習場から現在撤収中・・・。




誰もいない空地を進むゲジム達・・・




 スミ通信『・・ゲジム3体、侵攻中。
      専用道路で車両班が待機しています・・
      演習場の森を抜けた人は、速やかに移動をお願いします』



そんなスミの通信が前線組の各自に入るも・・・・・。






・・・






・・・ゲジム達が『空地』の半分を通過した・・・・・




その時だ。



・・・・・ヴァキィィィーーーン!!!!!


突如、先頭のゲジムが透明な壁にぶつかったように、
巨体をうねらせて後方に吹き飛ぶ・・・

続けて2体目、3体目も同様。





ザッ・・と吹き飛んだゲジム達の前に現れた4人・・・





 ナギサ「・・・せっかちさんね・・クフフ・・・」
ニタァ・・と邪悪な笑みを浮かべるナギサ・・・

両手を軽く広げる彼女を中心に、
薄い紫半透明の半球が、周囲一帯30mほどまで広がっている・・・。


『UEバリアー』
展開している範囲内を攻撃から防ぐ、防御型UE兵器。
ムゥリアンに対してのみ、それ自体が強靭な壁となる特性もある。
(強度、効果範囲は魔法力に比例)



 ミヨ「・・・あんな大きいムゥリアン達を・・一気に止めた・・・・・;」凄い・・

そのバリアー内から、ひっくり返ったゲジム達を唖然と見るミヨと・・

 トキエ(・・この人(ナギサ)が演習の方に配置されてなかったの・・
     こういう事か・・・)最強の足止めだな


車両班の護衛役についていたメンバーが、既に空地の中央でスタンバイしていた。


そして・・

 シイナ「いつ見てもエクセレントなバリアーね♪。流石、Sランク適合者」
バトルスーツに身を包んだ整備班、シイナの姿。


 ナギサ「ありがとv」
そう言いながら笑みを浮かべると・・
さらにUEバリアーの規模を広げていき、倒れたままのゲジム達をゴリゴリと押し戻す。


 ナギサ「・・・じゃあ、私はこのまま壁だけを作ってるわ・・。
     あんまり前に出過ぎても訓練にならないしね・・・フフ」

 シイナ「OK!☆、後はアタシ達3人に任せといてb」

 ミヨ「さ、3人!?、危険度Bのゲジム3体を私達だけでですか!?;」

 トキエ「心配ねぇーよ。
     シーナ先輩は去年まで支援班も兼任してた、バリバリの元前線組だ」

 ナギサ「そうそう、すんごいテクニシャンよvvv
     敵の弱点を熟知した、効率の良いいやらしいイかせ方で何人も・・」
 シイナ「コラコラコラ、アンタのベクトルにアタシを入れるな;」“何人”って何よ

 シイナ「魔法力が低い人間の戦う知恵って言いなさい」
 ミヨ(・・魔法力の低い・・戦う知恵・・・)


 シイナ「・・・っとお喋りはここまでね・・」

もぞもぞと体をくねらせ、起き上がろうとするゲジム達・・


 シイナ「・・まずは・・・―――――」
と、バトルスーツの恩恵(身体能力を引き上げる)を受けた
50mオーバーの手榴弾の投擲!






・・・ドーーーン!!





・・バジジ・・バジジ・・・

3体中、起き上がるのに遅れた2体のゲジムが、
そのままの体勢で痙攣して動きを止める・・・。


『UEスタングレネード』
攻撃力はないが、ムゥリアンを一時的に行動不能に出来る手榴弾。
防御型UE兵器(UEバリアーなど)の“障害物”として効果を細かく爆散させて
一帯のムゥリアンにそれを付着、動きを止める。



 ミヨ「なるほど!、これで止まっている敵を撃てば3人でも・・」
 シイナ「チッチッチ、それじゃ〜訓練にならないでしょ?w」

 シイナ「やるからには動いてる敵をやるのよ」ウィンク☆
 ミヨ「えぇ!?;」
 トキエ「ったりめぇ〜ッスね!」へへ


 シイナ「じゃ〜確実に1体ずついくわよ!」
 トキエ「っス!!」
 ミヨ「!?、は、はい!」


・・行動不能に陥らなかった1体が、体の半分をその場で立て、
状況を探るように、獲物を探すように、大きな一つ目をギョロギョロとさせる・・・。




巨体での体当たりを除けば、ゲジムの最大にして唯一の攻撃方法は、
この一つ目から放たれるレーザーである。
そして、その目は弱点にもなっている。

この敵は、リスクの大きい目はあえて後回しにし、
死角である後方から数で包囲、俊敏さを削りつつ倒すのがセオリーだ。



・・だが、シイナの戦法は違う。
今の、たった3人の支援型パーティでこれを倒す方法・・・



 シイナ「・・ミヨ!、UEシールド最大出力よ!!」
 ミヨ「はい!!」

シイナとミヨは、両手を前に重ねて出し・・
UEバリアーより規模の小さい、2mほどの防御膜『UEシールド』を展開する。

2人同時の発動により、強度は通常の2倍。


その2人の後方には、
UEグレネードランチャーを構えるトキエ・・・。



そう、あえてゲジムにレーザーを出させるのだ・・・。




・・ヒュンッ!!・・と空を切るような音と共に
一筋の光がシイナとミヨに向かって放たれる・・



 ミヨ「っ!?」

・・UEシールドで真正面からレーザーを受け止める2人。

 シイナ「耐えるのよ〜・・」

派手に飛び散る火花・・


 シイナ「!、よし!・・・3・・・2・・・1・・・」
ほんの少しの変化だが、敵のレーザーの照射威力が落ちた瞬間
シイナはカウントをはじめる・・



 シイナ「・・・トキエ!」

 トキエ「うッス!!」
放たれるUEグレネードランチャー・・・・・。






ゲジムのレーザーは強力だが、照射後に無防備を晒す小さな隙が存在する・・
それは時間にして僅か数秒。

一見、無茶な戦い方にも見えるが
敵の行動と、こちらの戦力を十分に理解しているからこそ出来る、シイナの最短戦法。






・・・トキエの一撃が着弾したゲジムの目(頭部)は吹き飛び、
その奥から、ムゥリアンの心臓部・・赤い球体『コア』があらわになる。


 シイナ「・・トドメは・・・」

・・と言いかけた瞬間、シイナ達がいる場所とは別角度から
一筋の光が走り、敵のコアを貫く・・・・・・・


 カヲル通信『・・・お待たせ。
       おいしいところを持っていって悪いね・・・フフッ』


『空地』の入口付近。距離にして250mほど離れた場所で
UEロングライフルのスコープを覗くカヲルの姿。



遅れていた“演習組”の到着だ。



 シイナ通信『・・タイミング良すぎw、確信犯でしょ?』
 カヲル「やだな〜、偶然に決まってるじゃないかw
     もしくは偶然の女神が僕にラストシューティングの見せ場を・・」

 シイナ通信『はいはい、まだあと2体残ってるから』

 カヲル「・・なるほど、アンコールだね?。フフッ、いいよ♪」
 シイナ通信『折れないわね;』ポジティブナルシスト









・・・・・・・









避難訓練&実地訓練、終了。



・・避難シェルターから下校をはじめる一般生徒達・・・・・。




一方の騎士様達は、
『騎士の館』にてシャワーを浴び、制服に着替え終え・・・


 リサ「――・・ふ〜・・終わった終わった〜♪」


ゾロゾロと『作戦室』に戻ってくる・・・。


いつもの班ごとの席順に着席し、壇上にはユミとアユミ先生。

 ユミ「・・・みんな御疲れ様。
    全ミッション、無事クリアーよ。
    90分以内という時間目標も達成できたわ(^^)」

 チカ「連休初日の補習はなしって事っスね!!」
 ユミ「えぇ、まずはね(^^)」

声は出さずにニヤリとガッツポーズをとるチカ。


 アユミ「・・だが各々、今回の実地訓練で
     未熟な部分や課題も多く見えただろう・・・」

コクリと頷く騎士様一同・・・



1年生と2年生は特にその事を噛み締める・・
実際、3年生達がいなければ、こんなスムーズには行かなかったと・・・。

そのハッキリとした自覚こそが、次のステージへの一歩・・・。






・・・・・とはいえ・・






ミーティングを終えた一同は、
差し当たり、緊張のガスが抜けたようにへにゃへにゃだ。

この後も、夕方までは『騎士の館』にて通常待機はあるのだが・・・


・・誰一人として、『作戦室』から出て行く気配がない・・・。
体力・気力ともに消耗したというのも当然あるが・・

大きなイベントを成し終えた後の、高揚と沈静が混ざり合った・・
何となくまだその余韻に浸っていたい・・・そんな感覚に包まれている室内・・・。

アユミ先生やキリア先生達もその気持ちは理解しているので
少しの間は口を挟まないでいた。




・・と、そんな『作戦室』に来客。


長細い紙箱を3つ抱えたサナエ先生だ・・・

 サナエ「あらあら(^^)、みんなお疲れみたいね・・フフ」


 タエコ「・・・っ!?!!!」

アンニュイな空気の中、サナエ先生が持ち込んだ紙箱に
いの一番に反応するタエコ。

 タエコ「・・せ、先生それっ!!!」ガタッ!

何だ何だと他の騎士様達も、顔と目線だけ注目を向ける・・


 サナエ「差し入れ持って来たわよ(^^)」


 タエコ「その箱っ!!!、
     伝説のドーナツキングダムじゃないですくぁ!!!!!」くわっ!!

 リサ「・・え?何?、新しいロープレ?」
 タエコ「違うわよ!、ドキンよドキン!!
     デパ地下のちょっと高級ドーナツ!!、ドーナツキングダムよ!!」

 リサ「へ〜・・・」
 タエコ「リアクション薄っ!、リアクションうっす!!
     テレビでも何回も紹介されてるあのドキンじゃない!!!」いつも行列の


 カナコ「タエコうるさいわよ・・・」
言葉ではクールぶっているが、表情はウズウズしている・・・(←結構ミーハー)


 サナエ「疲れたでしょうから、ちょっと甘いもので休憩にしましょう(^^)」

そう言いながら箱の蓋を開けると・・・
室内に広がる・・上品な甘〜い香り・・・・・


 コウ「すぅ〜・・・。あぁ〜イイ匂い〜・・・(=▽=)」

その有名らしいブランド名にピンッと来ている者も、いない者も
現物の美味しそうな匂いに素直に反応を見せはじめる・・・



疲れた体と頭に甘いもの・・・・・人類史上最強の誘惑。



 サナエ「さ、好きなのを選んでね(^^)」




 騎士様一同「・・・ギンッ!!!(☆_☆)」

ドーナツの箱をロックオンする、真っ赤に光る乙女達の眼光・・・



真の戦いはこれからだ・・・・・。




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by: へろ
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