彩花の騎士
ストーリー 38

日曜日(休日)のお昼・・

乗客が疎らなバスに揺られ、外を眺めるイサミ・・・。



その格好は、学校のジャージ姿・・・




 イサミ(・・・はぁ〜〜〜〜〜・・・・・兄上になんて事を・・・・・orz)ズーン・・



 バスのアナウンス「―――・・次は・・彩花街 東口、彩花街 東口、お下りの方は・・・」



 イサミ(・・・・・)




・・・




プァーン!・・・ブロロロロロォ〜・・・・・


走り去るバス・・

下車したのはイサミのみ。


普段、三枝女学園へ通うさいに車内からは見るが
下りたのは初めてのバス停。

住宅地から離れた場所なため、
車こそ行き交っているが、人通りはほとんどない・・・


 イサミ(・・・・・)


そんな何もないこの場所を見渡した後・・
イサミは軽い柔軟運動をはじめる・・・

続いてアキレス腱を伸ばし・・

そしてジョギングを開始する・・・。


兄に言った手前、たとえ誰も見ていなくとも律義に有言実行、
イサミという少女は実直で愚直な少女である。







・・・・・







 イサミ(・・・・・)

30分ほど走り続け、到着したのは三枝女学園。


この1ヶ月、自宅と学校の往復しかしていない彼女にとって
思いつく行動範囲など高が知れている・・・。


 イサミ(ふむ・・・)


運動部の声がする学園校舎を迂回し、『騎士の館』に向う・・・




 イサミ(・・・)

敷地に入ると、妙な落ち着きを覚える・・
いつの間にかこの場所に、それだけの思い入れが出来ていたのかと・・

そのまま休憩室に向う。




・・・




誰もいない静かな『休憩室』。


ポスッ・・バララララ!・・・・・ジーコジーコジーコジーコジーコジーコ・・・

普段は買わない、紙コップ型の自販機からジュースを取り出すイサミ


 イサミ(・・・これがメロンソーダというものか・・・・・
     なんという毒々しい色・・これで私も不良か・・・)フッ・・


ゴクリッ・・


 イサミ「!?!、ゴホッ!ゴホッ!」
    (なんだこの喉を焼くような刺激は!?!)

 イサミ(だ、だが・・これしき飲めずして何とする!!)


休日に1人、メロンソーダと格闘するイサミ・・・


その姿は間違いなく、今まで俗世の物にあまり触れてこなかった
箱入り娘たる証拠。






・・・






 イサミ(・・・うっぷ・・!)

昼食を抜いたまま走り、空きっ腹に炭酸飲料というコンボに
少しソファーで横になる・・

 イサミ(・・・今日はここに泊まっていこうか・・・
     兄上に何と謝ればいいのかわからん・・・・・)


お昼の2時半を過ぎたあたり・・
日の傾きと共に、休日が少しずつ終わりへと向っている
あの何とも言えない微下降ぎみの感覚が、イサミの思考にも影響を与える・・・。








ガシャン!!、ウィーーーン!

 イサミ「っ!?」

そこに、大きな機械音が飛び込んで来た。



 イサミ(何事だっ!!)

素早く身を起こし、すぐさま休憩室を飛び出して
辺りを確認・・


 イサミ(・・格納庫か!)

と、格納庫2階(吹き抜け)に直接繋がる渡り通路を走り抜ける・・



・・・



ザザッ・・っとスライディングぎみに、格納庫2階(吹き抜け)に到着すると
手すりを掴んで身を乗り出し、下を見る・・・

 イサミ「!!!」



 キリア「――・・よーし、そのまま外で待っていてくれ。車を取ってくる」

指示を出すキリア先生の前を、
白いディアース・・『コスモス』がゆっくり歩行している。

 イサミ(・・こ、コスモスが起動しているっ!!!)

 イサミ(一体誰が!?、1号機・・もしや!!)


ディアースから聞き馴染みのある声が発せられる・・
 ユミの声「了解しました。」


 イサミ「・・お姉様!!!」
それを見て無意識に、思わず叫んでしまう・・



・・ウィーン。

コスモスの頭部がイサミの方を向く・・・


 ユミ「・・あら?、イサミじゃない」

と、ユミが見ているコクピット内のモニターの右上に
小さなウィンドウが新たに開き、そこにイサミの拡大映像が映し出される。


 ユミの声「どうしたのイサミ?」

 イサミ「!、あ、えっと・・」
とりあえず叫んだだけで、話の内容など何も考えていない・・・



 ユミの声「今から試運転をするの、見学するのならキリア先生に・・
      駐車場にいるから合流しなさい」

 イサミ「!!、は、はいっ!!!」
目をキラキラと輝かせながら、普段とは明らかに違う高い声で、大きな返事・・

そのままダッシュでその場を後にするイサミ。



 ユミ「回線は8と・・」




・・・




駐車場。

車内に機器が積まれたワゴン車のエンジンをかけるキリア先生・・

とそこに・・


ピピピ・・ガガッ・・


車内無線が入る。

 キリア「ん?」

無線から流れるユミの声・・
 ユミの声「先生、石橋イサミが見学に加わります。
      そちらの車に乗せてあげて下さい」

 キリア「おぉ〜そうか、わかった」






・・・・・






騎士の館『格納庫』から出、そのまま防衛団専用道路を進むと・・

工場の跡地ぐらいの、かなり大きな空地が存在する。

この場所は、防護・防音壁でぐるりと囲まれ、
摸擬戦や、ディアースの操縦訓練などに使われる。





ユミの乗るコスモス1号機の試運転・・・

歩く、走るといった基本動作から、
背中のブースターを使った大ジャンプ・・

UEDライフルによる射撃、UEDソードでの素振りなど
次々とチェック項目をこなしていく・・・。





 キリア「――・・よしOKだ、次・・」

空地の隅に止められたワゴン車内では
機器が詰まった後部座席にて、キリア先生が何やらデータを取っている・・


その車外では・・
手渡された双眼鏡で、ユミの操るコスモスを夢中で追いかけるイサミ

 イサミ(はわぁー!!、凄い!、高いジャンプからの着地の瞬間に
     ブースターを軽く噴射させ、次の行動へのラグをなくしている!!)

 イサミ(あれは早すぎても遅すぎてもダメだ!、凄いぃー!!)フンーッ!=3

コウではないが、興奮のあまり鼻息も荒くなる・・


それほどまでに、ユミの操縦技術は優れている。

この手の、ディアースや戦闘関連に強い興味を持つイサミが・・
それらに目の肥えたイサミが惹き付けられるほどに


 イサミ(素敵すぎますお姉様っ!!!)キラキラ☆








・・・・・








夕方・・・

『格納庫』。


試運転を終えたコスモス1号機の、胸部が開き・・
中からバトルスーツ姿のユミが出てくる・・・

 イサミ「お姉様!」

ヘルメットのバイザーを上げ、コスモスの足元を見ると
イサミが目を輝かせながらこちらを見上げている・・


ユミがコクピット付近に取り付けられた、伸縮するワイヤーの吊革を使って
シュー・・っと、地面まで下りてくると

待ち焦がれたかのようにイサミが駆け寄って来る・・

 イサミ「御疲れ様です!、お姉様!!」
 ユミ「フフ、ありがと(^^)」

ユミは目で微笑んだ後、ヘルメットを脱ぎ
頭を軽く左右に振って、髪をなびかせ整える・・・

 イサミ(!・・い、良い匂いが・・・)ポワ〜ン・・




 キリア「お疲れぇ〜い!」
とそこに、車を駐車場に戻したキリア先生が手を挙げてやってくる・・

 ユミ「御疲れ様です」

イサミもそれに合わせてペコリと頭を下げる・・


 キリア「2号機の去年のセッティングをそのままコピーしたが・・
     特に問題はなさそうだな」
 ユミ「はい(^^)」
 キリア「うむ。残り2機はこれからの訓練に合わせて・・だな」
 ユミ「そうですね」


 キリア「石橋ぃ〜、乗りたくなったか?」
 イサミ「!、は、はい!!」

 キリア「アハハ!w、1年はまだ先だ!
     歩兵訓練とシミュレーター訓練をみっちりやってからな!」
 イサミ「うぐっ・・;」

 キリア「じゃ〜今日はこれでお開きだ、後はアタシがやっておくから
     2人は帰っていいぞ」明日学校だしな





・・・





『ロッカールーム』で制服に着替えるユミ・・

 ユミ「・・あら?、イサミは着替えないの?」
 イサミ「私は元々この格好ですので」

 ユミ「そう。自主トレに来てたのね、偉いわ(^^)」
 イサミ「いえ・・・」


グゥ〜〜〜・・


言葉を続けようとしたイサミのお腹が大きくなる・・

 イサミ「!!!」
顔が真っ赤になるイサミ

 ユミ「フフ、育ち盛りだもんね(^^)」


 イサミ「・・・・・」


妙な沈黙。
それは恥ずかしさもあるが、ユミの対応に引っ掛かる部分の方が大きい・・



 イサミ(・・今日のディアースの操縦を見て、
     やはりお姉様は尊敬できる方だと確信できた・・・)

 イサミ(・・・しかし、何故こうも丸くなられたのだ・・・???)









―――・・・・・









ユミとイサミは、三枝女学園に入る前から面識がある。


・・・溯る事、3年前。

彩花街のある「七日市」の隣の市、『三幸(みゆき)市』。

位置的には彩花街の東面あたりと隣接するため、実際の距離はさほど離れていない・・

その一角にある、いわゆる高級住宅街には
先輩のことを“お姉様”と呼ぶほどの、お嬢様学校が存在する。


当時、そのお嬢様学校の中等部3年生であったユミと、1年生のイサミ・・


花道、茶道、日舞、演劇・・そんな文化的な部活動が盛んな学校において
運動部は少なからず目立ち、その中で活躍しようものなら
年頃の乙女達の話題の的になる・・そんな環境だ・・・。

ユミもその話題の1人として、弓道部の部長を務めていた。



 ユミ「部活に興味のない見学なら結構です。練習の邪魔よ」


 ユミ「お喋りがしたいのならここから出て行きなさい」


 ユミ(・・56・・57・・58・・59・・5分。)「休憩終わり。整列!」



現在のユミとはかなり違い・・
潔癖で効率重視なものの考え方と、
それを実行する氷のように研ぎ澄まされた鋭さと厳しさ・・・

実力もカリスマもあるが、彼女に近づいた者ほど恐れ、傷を負う・・・
ユミはアイドル視される生徒の中でも、特に他人を寄せ付けない孤高の存在であった。




 イサミ(・・・・・なんて凛とした方なんだ・・・・・)




剣道部員であったイサミは、そんなユミの姿を何度か遠目で目撃する機会があり
いつしか心を奪われていた・・・・・。







 イサミ「・・あ、あの!・・お昼御一緒させて頂いても宜しいでしょうか!」
 ユミ「・・えぇ、御好きな席にどうぞ」

混み合う食堂で、唯一空いているテーブル・・
ユミだけが、本人の意思とは関係なくそこを独占している状態の中
イサミが声を掛ける・・・





部活も学年も違うため、それほど深い交流はなかったものの
イサミはユミの背中を追い、幾度かのこういったアプローチの結果、
名前を覚えられるまでになった。





イサミにとってはその中学時代の1年間の、厳しいユミの印象があまりにも強く
そしてその姿を憧れの感情で見ていたため・・・・・








―――・・・・・










現在。


 ユミ「(^^)ニコッ」



 イサミ(・・・うぅ・・・・・;
     昔のお姉様を知っていると、あまりに別人過ぎて・・・)天使の微笑・・


 イサミ(だが、これはこれで・・少しずつ馴れて来ている自分がいる・・・;)

 イサミ(・・何故だ?、美里先輩がぬるすぎて
     “新”お姉様のぬるさが軽減される時もあるからか・・・?)

 イサミ(というか美里先輩など今まったく関係ない!!)消えろ!


 (コウ「そんにゃ〜・・・」(T△T)あ〜れ〜・・)←イサミの脳内イメージ



 イサミ(・・そもそも新お姉様とはなんだ?
     お姉様はお姉様ではないか・・・現にディアースを動かす姿に感服した!。
     あれは間違いなく・・・)




 ユミ「―――・・・イサミ?、イサミ?」

 イサミ「!?、は、はい!!」


 ユミ「・・大丈夫?」


 イサミ「問題ありません!、新お姉様!!」
 ユミ「し、しん・・?;」ぇ

 イサミ「あぁいえ!、お姉様!!;」

 ユミ「?・・そう?。
    じゃあ帰りましょうか・・」
 イサミ「はい!」



 イサミ(・・・そうだ・・お姉様は丸くなられたが、今でも尊敬できる方だ・・!)



 イサミ(・・コスモスから降りてこられる姿を見た瞬間・・
     胸が凄く熱くなったあの感覚・・・・・私は知っている!!!)






・・騎士の館を後にし、バス停までの下り坂を歩く2人・・・




 ユミ「――・・ところでイサミはいつ騎士の館に来ていたの?」

 イサミ「あ、お昼過ぎにジョギングを・・し・・・・に・・・!!!」



 イサミ「・・・・・」(@△@川)サァー・・
みるみる青ざめるイサミ・・・


 ユミ「・・ん?」



 イサミ(しまった兄上になんて謝るか何も考えていなかった!!!!!)




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by: へろ
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