彩花の騎士
ストーリー 34

翌日、土曜日(休日)・・・午前11時。


家での家事を一通り終えたコウは、『騎士の館』に来ていた・・

昨日のイサミとチカの訓練を見て
やはり自分はまだまだだと実感したからだ。


誰もいないロッカールーム・・
流石に整備班も、今週は休みを取っているらしく

騎士の館全体が、とても静かに感じる・・・。


 コウ(・・うぅ・・・人気が全然ないのって、こんなに恐かったんだ・・・;)
ジャージにいそいそ着替えるコウ

 コウ(誰か誘えばよかったかな〜・・・ってダメダメ!
    先週みんなに(特訓で)迷惑かけたばっかりなんだから!。自主練自主練)



・・・



まずは基礎体力作りとして、1人『トレーニングルーム』で汗を流していると・・

 コウ「!?」ビクッ

大きな人影が、ぬっ・・と音も立てずに部屋に入ってきた・・


突撃班の1年、タツミだ。

180cmの大きな体に対して、とても無口で気配を感じ難いため
突如現れた感が凄い・・

 コウ「や、やぁ・・」
ほとんど絡んだ事がないため、ぎこちない挨拶・・

 タツミ「・・・」
言葉なく、一礼をするタツミ

 コウ「・・・」
   (・・な、なに話そう・・・・・。いや、お互いトレーニングに来てるんだし
    別に無理に話さなくてもいいよね・・・)

そんな事を思いながら、ふとタツミの方を見ると・・

 コウ(!?!?!)ビクッ

ウエイトマシンの重りをいきなりMAXにしているタツミ

 コウ「だ、大丈夫?・・そんなに重り付けて・・・」

 タツミ「・・・」
コクリと頷くタツミ。
そして機械をギシギシ言わせながら、表情ひとつ変えずにスタート・・


 コウ「・・・・・」(@□@;)あんぐり・・



そんなタツミの近くで、
最も軽い重りで頑張ってる自分がちょっと恥ずかしくなるコウ

 コウ「ふ、ふぅ〜・・・そ、そろそろお昼だし・・休憩するかな・・うん(・v・;)」
独り言。


 コウ「じゃ、じゃ〜お先・・(^^)」
 タツミ「・・・・・御疲れ様です」




トレーニングルームを後にするコウ・・

 コウ(・・なんで私の回りの1年生、あんなスーパー女子高生ばっかりなの!?;)






・・・・・






 コウ「・・はぁ〜・・・」溜め息

イサミにチカ・・そして先程のタツミと・・
明らかに自分より優秀な1年生達を目の当たりにし

気持ちばかりが焦り過ぎた結果、急に気分が乗らなくなったコウは
『校舎屋上』にやって来ていた・・・。


フェンスに軽くもたれ、座る・・


誰もいないそこから見上げる空には、薄っすら淡い雲が混ざり・・
近くの森から、鳥の鳴き声が聞こえてくる・・・


 運動部員「三枝ぁ〜・・」
 運動部員達「ファイッオー、ファイッオー、ファイッオー、ファイッオー」

 運動部員「三枝ぁ〜・・」
 運動部員達「ファイッオー、ファイッオー、ファイッオー、ファイッオー」


学校の外周を走っている運動部の掛け声が、そのリズムが妙に心地良い・・・。


 コウ(・・・・・え〜っと・・この後どうしよう・・
    少しだけシミュレーターやって帰ろうかな・・
    でも何かめんどくさいな〜・・設定とか色々・・・)ボ〜・・

 コウ(・・あ、そうだ・・明日25日だっけ・・
    “ディアオトメ(漫画雑誌)”の発売日だった気が・・)ボ〜・・

 コウ(スミちゃん達誘って、たまには叶街でもブラブラしようかな〜・・)ボ〜・・


春の陽気も相俟って、現在・・・気力0(チーン








 運動部員「よーい・・スタート!」

 運動部員「いけー!!」
 運動部員「記録更新いけるぞー!!」

 生徒「キャー!」
 生徒「ユエさーん!」
 生徒「ユエ先輩ー!!」
 生徒「キャー!ユエ様ステキー!!」
 生徒「ユエ様ー!」
 生徒「キャー!」
 生徒「ユエさんファイトーーー!!」




 コウ「・・・?」
ぼ〜・・っとしているコウの耳に、
下のグランドで騒いでいる声が入ってくる・・・

本来なら聞き流すそれだが・・

聞き覚えのある名前を叫ぶ黄色い声には、
思わず身を起こして見ずにはいられなかった・・。


 コウ「・・何だ何だ?、ユエ様??」

フェンスに両手をガシッっと掛け、
グランドで走っている運動部員達に目を凝らす・・




行われているのは、陸上部の100m走のようだが・・
休日にしてはやけにギャラリーが多い・・・

 コウ「あ!、ホントだユエちゃんだ!」

そこには・・4人一組で走る中、ダントツでトップを走るユエの姿

 コウ「凄っ!、ユエちゃん早っ!!」



 コウ「・・それにしても・・・」
気になるのはやはりギャラリーの方だ・・
制服の腕章を見れば、3学年全てのファンがいる・・・

 コウ(ユエちゃん人気あるな〜・・・。
    昔からスポーツマンの正統派って感じで、
    サッパリした性格がイイんだよね〜)(=v=)解る解る

 コウ(それでいて優しいし・・)

 コウ(陸上も騎士様と平行してやってるとか・・
    やっぱりユエちゃんは今でも変わらずカッコイイな〜・・・・・)


ボ〜・・っとユエを眺めるコウ・・


思い出されるのは昔の記憶・・・・・。









・・・―――――








2人は小学5年生の時、はじめて同じクラスになった。

明朗活発でスポーツ万能なユエは、クラスの中でも目立つ存在であり
コウも多くのクラスメイトと同様、彼女に憧れを持っていた・・・。

その頃はまだそれだけの、本当にただの同級生でしかなかった・・




・・・コウの気持ちに変化が現れたのは、中学2年の夏休み。




これといった事もなく、ダラダラと夏を過ごしていたコウ・・

近くのコンビニで立読みをした帰り・・
それ程仲も良くないクラスメイトと偶然出会い、

お互い暇を持て余していたため、何となくの流れで一緒に帰る事になった・・・。

 同級生「っかし暑いね〜」
 コウ「そだね(^^;)」

ベタに暑さの話題から、宿題や嫌いな先生の愚痴・・
左から右にすぐ抜けていきそうな適当な話で繋ぎながらブラブラ歩く・・・。


しばらくして・・


前方から汗濁で走って来る少女と出会う・・・ユエである。

 ユエ「オッス!」
 コウ「あ・・部活?」
 ユエ「う〜ん、半々かなw」
その場で足踏みをしながら話すユエ

 ユエ「じゃ!」
会話らしい会話もないまま、爽やかに走り去る・・


 同級生「・・・こんな暑い中よくやるわね〜」
 コウ「うん・・」
 同級生「暑さでバカになってるとか?w、アハハw」
 コウ「・・・・・」

そんな同級生の心無い一言に、コウは不愉快な気持ちを感じたものの
いざこざを避けるため、何も言い返せなかった・・・。


 同級生「夏休み入ってから月見さんよく見るわ〜・・
     たぶんここジョギングコース?、美里さん何回見た?w」
 コウ「え?・・・今日がはじめてだけど・・」
 同級生「そう?、私なんてもぉ5回ぐらい見たかなw
     序盤のスライムかっつの!ww」
 コウ「・・・」

ユエとそれ程深い関わり合いがないコウであったが、
それでも小学校からの顔見知り・・彼女の人の良さは知っている。

そんなユエが侮辱される事に無性に腹が立った・・・。


 コウ「・・・ゴメン、私ちょっと買い忘れしちゃった(^^;)」
 同級生「あ、そう?、んじゃまたね〜・・・」

適当なウソをついてでも、そこから直ぐに立ち去りたいコウ・・

そして何故か、ユエに凄く会いたいという衝動にかられた・・・・・。




・・・




コウは今来た道を戻り、
律義に“ついたウソの通り”、コンビニでジュースを選ぶ・・・。


 コウ(・・・・・そうだ!)


・・・スポーツドリンクを2本買い・・

先程の帰路を、なるべくゆっくりとした足取りで進む・・・
同級生に追い付かないように・・・ユエとの遭遇を思いながら・・・。




ジリジリと照り付ける太陽、暑さを助長する大量の蝉の鳴き声・・・




 コウ(・・こ、これは・・・私がマズイかも・・・;)

・・あまりの暑さのため
ゆっくり歩くのを止め、丁度良い木陰に入って緊急避難。


そして買ったスポーツドリンクの1本を、時間を繋ぐようにちびちびと飲む・・・。





・・・





・・数分後・・・

熱せられたアスファルトから立つ、ゆれる陽炎ごしに人影が見える・・

 コウ「あ・・」

走って来るユエの姿に、妙な嬉しさを覚えた・・・。


 ユエ「――・・アレ?、さっきもいたよね?」
 コウ「う、うん・・;」

 ユエ「・・・もしかして熱中症!?」
心配そうな顔のユエ・・

 コウ「あ、いや・・ちょっと涼んでただけ・・(^^;)」
 ユエ「そっか、良かった・・」ほっ・・

 コウ「・・・あ、そうだ・・
    ○○さん(別れた同級生)帰っちゃったから・・・コレ・・いる?」

そう言ってレジ袋から、結露で濡れたスポーツドリンクを取り出す・・・。

流石に“ユエのために”買ったジュースとは言い出せず、
誤魔化しのウソをついて・・・


 ユエ「・・・え?・・アタシに??」
 コウ「う、うん・・ちょっとぬるくなっちゃってるけど・・」

 ユエ「いいの?」
 コウ「うん」
 ユエ「ありがとう!」遠慮なく頂くね


ユエは手渡されたペットボトルの封を早速開け、
グビグビと喉を鳴らして飲む・・


 ユエ「―――・・っはぁ〜〜〜!、生き返る!!」
 コウ「・・・」

 ユエ「そろそろ休憩入れようと思ってたからさ!、サンキュね!」
 コウ「うん・・・じゃあ私はこれで・・」

 ユエ「え?、もぉ行っちゃうの?」
 コウ「?」

 ユエ「せっかくだし、少し話そうかな〜って思ったんだけど」あんまり話した事ないし
 コウ「・・月見さんがいいんだったら(^^)」



・・・



少しの間、どうでもいい日常会話を楽しんだ・・

2人はそもそものジャンルが違う・・これといった共通点もないはずなのだが、
話は思いのほか弾んだ・・・

たまに存在する、不思議と気が合う類のそれだ。






その後・・夏休みの間に数回、顔を合わせ
会話の時間も比例して長くなった・・・。






2学期に入ってからは、
お互い名字から名前で呼び合うようになった・・・。




部活に勤しむユエは、
文芸部に席だけ置いた幽霊部員の・・ほぼ帰宅部のコウとは
学校以外では全くと言っていいほど交流はなかったが

それでも校内では、友達と呼べる存在になっていた・・・。






3学期になって、席替えで前後の席順になった時は
コウもユエも毎日が楽しくて仕方なかった・・

短い休み時間、注意の甘い先生の授業・・
そんな隙あらば、くだらないお喋りをしたり、イタズラをしあったりと、
ジャレ合うのが日課となっていたからだ。






そして3年生でクラスが別々になった時、
コウはユエに対して、特別な感情が生まれていた事に気付く・・・・・。







その冬、両親から突如引っ越しを告げられたコウは
秘めた想いを抑え切れなくなり、ユエに告白する・・・・・




結果は玉砕。



コウが抱いていた“好き”という感情と
ユエが抱いていた“好き”という感情は

違う“好き”・・・



コウの初恋とも呼べるものは、そんな経緯で幕を下ろした・・・。








・・・―――――









 コウ「・・・・・」
屋上からユエの姿を見ながら、昔の事を思い出していたコウ・・・


ファンの1人であろう1年生が、ユエにタオルを手渡している・・

 コウ「それはラブ?、ライク?」
その様子を見ながら、思わず口から出た言葉・・


ユエに対して、もう気持ちの決着も、心の整理も出来ている・・・

未練はない。


ただやはり、そんな事があったためか
ユエとは何となく距離をとってしまっている現状・・・・・。








・・テレレー!♪
デンッデンッ!!♪、ジャーン!♪
ブオブオ〜〜〜♪




 コウ「っ!?」ビクッ!?

突如後ろの方から、
色々な楽器の音・・というよりは雑音に近いものが耳に飛び込んできた・・

 コウ(なになになにっ!?(@□@;)
    せっかく人がセンチメンタルな気分に浸ってたのにぃー!!)

慌てて反対側のフェンスに走り、隣の校舎を覗く・・


 コウ(もぉー!、何で窓開けたまま鳴らすかなー!)プンスカ

視線は隣校舎の3階『音楽室』。
吹奏楽部が窓を開けて練習をはじめたようだ・・・


 コウ(・・って、怒ってる私の方がアレか;)




 陸上部部長の声「――・・コラそこ入ってくるな!、練習の邪魔だ!」
 ファン達の声「えぇー!!」ブーブー
 陸上部部長の声「月見!、お前から注意しろ!!」ったく聞きやしない・・
 ユエの声「すみません!!」



 コウ(・・・・・ユエちゃんもユエちゃんで大変なんだ・・;)

 コウ(・・・私もこんなところで腐ってる場合じゃないよね!、うん!)

気持ちを入れ替え、屋上を後にするコウ・・・。






・・・・・






『トレーニングルーム』に戻ると
タツミが筋トレの鬼と化していたが・・

コウは気にせず、今の自分のレベルに合ったメニューをこなしはじめる・・・。






・・・・・






 コウ(・・ふ〜・・・・)

少し休憩しようと、チラリと壁掛け時計に目をやるコウ・・

 コウ「・・えぇ!?、もぉ3時前!?!?」

隣で黙々と筋トレをするタツミに、知らぬ間に引っ張られていたのか・・
時間を忘れるぐらい、夢中で訓練に励んでいたようだ・・・。

 コウ「い、何時の間にこんなにやってたの・・・?;」

 タツミ「・・・」
ウエイトマシンの手を止め、チラリとコウの方を見る・・

 コウ「・・・!」
2人の目が合う・・




 タツミ「・・・」シャキーン!b
無言で右手の親指を上げ、グッドサインを出すタツミ・・・

 コウ「???・・あ、ありがとう;」
   (ど、どういう意味なのかな・・・???)

おそらく・・
コウの頑張る姿が、タツミに筋肉仲間として認められたのだろう・・・。




 コウ「・・・・・そろそろお腹空かない?」
何となく話せる雰囲気になったところで、タツミに声を掛けてみる・・

 タツミ「・・・」
少し間を置いた後、コクリと頷く・・

 コウ「じゃ〜・・」


と、次の言葉を発しようとした時だ



ガチャ・・



ドアが開く・・

 コウ「・・?」
来訪者が誰か確認しようと・・話を止めて、ドアの方を振り向くと・・


 ユエ「・・あれ?、意外な組み合わせ」

ドアノブを握ったまま、上半身だけ部屋に入れて、顔を覗かせるユエの姿・・・。


 コウ「!!」
   (ユエちゃん!?)



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by: へろ
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