彩花の騎士
ストーリー 21

放課後。

騎士の館2F『シミュレータールーム』。


ビーーーーーーー!


電子音が鳴り、構えていた訓練用UEライフルを下ろすカナコ・・・。


 カヲル「・・うん、流石だ」

コンピューター部屋にいるカヲルが、マイク越しにカナコに声をかける・・


 カナコ「まだまだですよ・・・」

 カヲル「そうかい?、十分にハイスコアだけどね・・」

カナコは訓練用UEライフルを置き場に戻し・・
ヘルメットを脱いで、首を左右に少し振って髪をなびかせ整える

 カナコ「理想は高く・・ですよね?」
そう言いながら、大部屋から出てくる・・・

 カヲル「フフン・・・。よし、次はフミコだ」
 フミコ「はい・・」



・・・



シミュレーター訓練を黙々とこなすフミコ・・・

その様子をコンピューター部屋から見る、
長い足を組んで椅子に座るカヲルと、腕を組んで立つカナコ・・

 カヲル「飲み込みが早い娘だね、フミコは・・」
 カナコ「そうですね」

マイクがOFFになっているため、2人の会話はフミコには聞こえない。


多少、狙いを付けるのに時間はかかるものの・・
次々と、狙撃用の小さい(離れた)的を撃ち抜くフミコ


 カヲル「あのクールな性格は実に狙撃向きだ・・」
 カナコ「淡々と・・・過ぎるような気もしますが」

 カヲル「そうだね、もう少し僕達に対しても心を開いてほしいかな」
 カナコ「そ、そういう意味じゃありません・・・」

 カヲル「ハハ、そういう事にしておくよ」
 カナコ「なっ、カヲル様!」


ビーーーーーーー!


電子音が鳴り、フミコの訓練が一段落する。

マイクをONにし、カヲルが声をかける・・
 カヲル「良い調子だ。まず狙いを定める事・・ちゃんと出来ているね」
 フミコ「・・有り難う御座います」
 カヲル「じゃあ続けて行くよ・・」
 フミコ「はい」





・・・・・





一通りの訓練を終え、大部屋から出てくるフミコ・・


ヘルメットを脱ぐと、ほんのり汗ばんでいるのが分かる

 フミコ「ふ〜・・・」
小さく息を吐く・・


 カナコ「・・・」
 カヲル「・・・カナコ」

 カナコ「はい、何でしょう?」
 カヲル「タオルぐらいとってあげなよ」

 カナコ「アタシが後輩にですか?」

 フミコ「あ、大丈夫です」
フミコはコンピューター部屋の隅に置いてある、手荷物のところに向う・・

 カヲル(やれやれ・・・不器用な娘だ)




タオルで汗を拭きながら、早足で2人のもとに戻ってくるフミコ・・

そのタイミングで、カヲルはくるりと椅子を回転させ、立ち上がる

 カヲル「・・・じゃあフミコは少し休憩しながら、
     カナコの横でコンピューターの操作を見て、使い方を覚えるように。
     カナコ、サポート頼むよ」
そう言いながら、ヘルメットをかぶり大部屋に入って行く・・・

 カナコ「任せて下さい!。
     ホラ、富士原フミコ!、始めるわよ!」

 フミコ「あ、はい・・・」



・・・



フミコがやっていた無機質な的を撃つ訓練ではなく、
動くムゥリアンの的(立体映像)を撃つ、難易度の高いシミュレーター訓練。

カヲルは次々と、的確かつ迅速にムゥリアンを狙撃・粉砕していく・・・

 フミコ(・・・動かない的を狙うだけでも疲れるのに・・・・・やっぱり凄い・・)

 カナコ(・・カヲル様、超素敵v)(=u=)うっとり・・

 フミコ「・・・あの」

 カナコ「・・・・・」(=u=)うっとり・・

 フミコ「・・・あの・・」

 カナコ「!、な、何っ!?」
 フミコ「あ、いえ・・・・・。
     実際のムゥリアンも、あんな風に倒せるんでしょうか?」

 カナコ「あ、あぁ〜・・」

そんな会話がマイク越しに聞こえたのか、訓練を続けながらカヲルが応える

 カヲル「良い質問だ」

 カヲル「僕ら狙撃班が使うライフルは、貫通型と言って
     敵のコア・・つまり弱点を貫く事に特化した銃だ・・」

ズビシュー!、ズビシュー!

訓練用UEライフルを撃つ合間に、上手く会話を入れるカヲル。

 カヲル「威力も大きい。“ゴブリ”程度なら、こんな感じで問題はない」

ズビシュー!

 カヲル「ただムゥリアンにだって、頑丈なヤツはいる・・。
     カナコ、“デブル”を出してくれ」

 カナコ「はい!」
そう言われ、カナコがコンピューターを操作すると・・

大部屋に出ていたゴブリ達の立体映像が消え・・

ゴブリの倍近い大きさの・・
ゴリラと鬼を足したような、筋肉質なムゥリアン『デブル』が表示される。

・・とは言え、狙撃モードのため、立体映像のそれは小さい。


 カヲル「例えば・・・」

ズビシュー!

カヲルの狙撃が命中するが、デブルは怯んだだけで消滅はしない。


その後、何度か訓練用UEライフルから放たれるレーザーを当て続ける事で
ようやくデブルの立体映像は消える・・・。

 カヲル「解るね?」

 フミコ「はい・・」

カヲルはライフルを下ろし、訓練を中断する・・・。

 カヲル「こんな敵が現れた時、フミコならどうする?」
 フミコ「倒すまで撃ちます」

 カナコ「アンタねぇ〜・・」
 カヲル「フフw、実にシンプルな答えだ」

 カヲル「・・だけどフミコも使って解ったと思うけど、
     ライフルの連射性能は低い・・・それでも撃ち続ける事に拘るかい?」
 フミコ「・・・」

 カヲル「答えは簡単、頼ればいいんだよ。
     僕らは狙撃班である以前に、三枝女子防衛団だ、沢山の仲間がいる」

カヲルの話に、「仰るとおり!」と言わんばかりにコクコクと頷くカナコ

 カヲル「しかしその仲間への信頼を得るのは、今後のキミの努力次第だ」
 フミコ「・・・はい」

 カヲル「それは戦闘的な意味だけじゃない、人との関わりも含めてね」
 フミコ「・・・」

カヲルの話に、「仰るとおり!」と言わんばかりにコクコクと頷くカナコ


 カヲル「・・そうだろ?、カナコ」

 カナコ「え?、あ、はい!、その通りです!!」

 カヲル「フフ・・」
小さく笑い、訓練用UEライフルを置き場に戻す・・

 カヲル「・・じゃあこの後の訓練は、しばらく2人で出来るかい?」
 カナコ「?。カヲル様は・・・?」

 カヲル「僕は少し野暮用で抜けなくちゃいけない・・」
 カナコ「そうなんですか?」

 カヲル「あぁ・・。悪いけど、後の事は頼んだよ・・カナコ」

 カナコ「!、任せて下さい!!」



・・・



カヲルがシミュレータールームを後にする・・・。


 カナコ「・・・さぁ富士原フミコ!、ビシビシ鍛えてあげるわよ!!」
 フミコ「はぁ・・・」

 カナコ「返事は「はい」でしょ!」
 フミコ「はい・・」
    (悪い人じゃないんだろうけど・・・桐原先輩ってちょっと苦手だな〜・・)






・・・一方、シミュレータールーム前の廊下。

どこに行くわけでもなく、腕を組んで壁にもたれ掛かるカヲル・・

 カヲル(・・少しは距離が近づいてくれればいいんだけどね・・・)



・・と、階段の方から声が聞こえてくる・・・

 ???「――・・今日はムゥリアンの映像を出して訓練をします」
 ???「よっしゃキター!、リベンジー!!」
 ???「えぇー!、アレですかっ!?」
 ???「映像に怖がってどうするんですか・・・」
 ???「でもアレ、凄く気持ち悪いよ;」
 ???「軟弱な・・・。それこそ倒しがいがあるというものです」
 ???「フフフ・・w」


話しながら階段を上って来たのは・・
ユミ、コウ、イサミ、チカのディアース班。


 カヲル「・・ディアース班は賑やかだねw」

 ユミ「あらカヲル、どうしたの?」

 カヲル「いやちょっとね・・・。
     シミュレータールームを使うのかい?」
 ユミ「えぇ、そうだけど・・・・・使ってるの?」

 カヲル「悪いけど、15分ぐらい後にしてもらえるかな」
 ユミ「・・構わないけど・・・・・」

 コウ&イサミ&チカ「???」

ユミはカヲルの意図を理解しているのか、それ以上は特に聞き返さず
コウ達に『休憩室』でしばらく待機の指示を出す・・・。




・・・コウ、イサミ、チカが休憩室に入ったのを確認すると・・

ユミはカヲルの横に立ち、壁にもたれ掛かる・・・。


 ユミ「・・・今思えば、お姉様方って・・こういう気の回し方もされてたのね」
 カヲル「そうだね・・・」

 ユミ「自分で言うのもなんだけど・・私なんて1年生の時は・・・」
 カヲル「ハハw、あの頃のキミは随分扱い辛かったからねw」
 ユミ「フフフw」

 カヲル「でも僕も同じさ・・・
     自分の力に己惚れて、仲間の大切さを軽んじていた」
 ユミ「個人プレーに走った結果・・・か・・。
    あんな思いはあの娘達にはさせたくないわね」
 カヲル「あぁ・・」

 ユミ「・・・“ユキエお姉様”、今でも地元の防衛団で活動されてるんでしょ?」
 カヲル「『不死鳥聖女(フェニックスガール)』とはよく言ったものだよw
     あの人は今でも僕の憧れさ・・・」

 ユミ「フフ・・。皆様お元気かしら・・・」

 カヲル「次は僕らが・・だね、団長さん」
 ユミ「えぇ・・そうね!」







・・・その頃、『休憩室』では・・・

 コウ「――・・やめなってチカちゃん」
 チカ「大丈夫っスよ!」

休憩室の棚に飾られている、ディアースのアクションフィギュアをいじるチカ

 イサミ「いい加減にしろ、二階堂チカ。
     私達は待機を命じられたのであって、遊んでいいとは言われていない」
 チカ「くぅ〜・・やっぱカッコイイなぁ〜♪」

イサミの言葉は無視し、フィギュアのポージングを勝手に変える・・

 チカ「「行くぜ相棒!、バーニングブレイブシューーート!!」ってか〜♪」

 コウ「・・あ!、それ何か知ってる!」

 チカ「ムフフ、流石コウ先輩・・」キラーン☆
フィギュア片手にくるりと振り返り、ソファーに座るコウを見る・・

 チカ「『バトルアタッカー豪』っスよ!!!」(炎ー炎)bにっ!

 イサミ「またそれか・・・・・」

 チカ「あぁー!、今馬鹿にしたろっ!!」
 イサミ「当然だ・・・」

 チカ「バーニングブレイブシューーート!!!」
イサミの頬にフィギュアをグリグリ押し当てる・・





パンッ!!!!!





休憩室に響く乾いた音と共に・・
弧を画き、宙を舞うディアースのフィギュア・・・・・

イサミが手で払い除けたそれは、床に落ち、腕がもげる・・・・・。

 イサミ「・・・」
 チカ「・・・」




沈黙・・・。




 コウ「・・・・・」
無言でソファーから立ち上がるコウ・・・

そのまま壊れたフィギュアを拾い上げる。

 コウ「・・・チカちゃん、アニメの話はまた後でしよ・・ね?」

 チカ「・・・」

 コウ「私も昔、自分の趣味押し付けすぎちゃって失敗した事あるよ」
そう言いながら、壊れたフィギュアをチカに見せる・・

 コウ「好きな物がこんなになっちゃったら、嫌だよね」

少し間をおき、コクリと頷くチカ・・・


 コウ「なら謝ろ、イサミちゃんとこのお人形に・・・」


 チカ「・・・・・・・・・・はいっス」





・・・・・





微妙な空気と沈黙の休憩室。

ソファーの中央にコウ、その左右に少し離れて座るイサミとチカ・・・。

 チカ「・・・」
 イサミ「・・・」

 コウ(うぅ・・・気まずい;)



・・・そこに・・・

 ユミ「・・・みんなお待たせ」

 コウ(救世主キター!)(T▽T)パァー

 ユミ「あら?、随分静かに待ってたのね・・。
    待機とは言ったけど、そんなにキッチリしてなくてもよかったのに・・・」


 コウ「さ!、訓練しましょう!訓練!!」
勢い良く立ち上がるコウ・・

 ユミ「元気ね、コウ(^^)」

 コウ「はい!、そりゃもう!w
    イサミちゃん!、チカちゃん!、いくよー!!」
座ったままの2人に対して、両手を差し出す

 イサミ「・・・」
 チカ「・・・」

無言の後・・・・・コウの右手をイサミが、左手をチカがとる・・・

 コウ「・・んしょ!」
と、二人を引っ張り立たせようしたが・・・・・・・動かない。


 イサミ「・・・」
 チカ「・・・」


 コウ「あれ?;」


 ユミ「何やってるの、コウ・・・?;」




 チカ「・・・・・・・ぷっ!」
 イサミ「・・・・・・・っ!」

そんなコウの姿に、チカはもちろん、
普段人前で笑う事などなかろうなイサミも、小さく吹き出す。


 チカ「コウ先輩おもしろすぎっスよ!!ww」
 イサミ「・・・w」

 コウ「ハハ;、もぉ〜二人ともちゃんと立ってよ!」(^^;)


 チカ「はいっス!w」
 イサミ「・・・」
言葉こそないが、イサミの表情も柔らかい・・


ギュッとコウの手を握り返す、チカとイサミ・・


信頼の芽が、小さく顔を出す・・・。



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by: へろ
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