彩花の騎士
ストーリー 13

 「♪ピロロロロロロロピロロロピロロロピロロロピロロロピーピピー♪」

部屋にけたたましく鳴り響く、ノリノリの目覚し時計のアラーム音・・・


 コウ「―――・・ん〜〜〜・・・」
寝ぼけ混じりで、頭上のそれに手を伸ばし・・・止める。


10秒ほど静止・・・

直後、ハッ!として飛び起きるコウ。

 コウ「ミーティング!?、今日から騎士様のミーティングだっ!?」



急ぎベッドから下りて、洗面所に向おうとする・・

ガイ〜ン!
 コウ「っっっ!?!!!!!」(@□○川)

テーブルにスネを打ち付け、声にならない声を上げて転げ回る・・


 コウ「・・っくぅおおお〜〜〜!!、なんとぉーーーっ!!」
ズドンッ!と床を踏みしめ、立ち上がる・・

朝から異常にテンションが高いコウ・・・・・。





―――・・・





「私立三枝女学園 防衛団」が、彩花街の防衛を担当するのは
“朝7:30〜夕方6:00”までである。

この間に現れたムゥリアンに対応するのだが・・
地域の出現頻度はそれ程高くないため

防衛団員達は、警戒時を除いて
基本的に一般生徒と同様の学園生活をおくる。

そして放課後は、騎士の館・・もしくは校内での待機とし
戦いに備えての訓練・学習・整備等を行なっている。





朝7:30『騎士の館 2F・作戦室』。

三枝女子 防衛団の最初の日課であるミーティング。

各団員の出席確認、健康状態、その他連絡事項等が行われる。



 ユミ「―――・・じゃあ次にアリサ、今日の“予報”をお願い」

そう促がされると・・
通信班の班長、日高アリサが教壇に立つ

と同時に、部屋の明かりが少し暗くなり、
電子黒板に『彩花街』・・そしてここと隣接する『叶街』『並川街』
・・この3つの街から構成される『七日市』を中心として・・

近隣の市も含めた、地元の人間には馴染み深い地図が表示される。


 アリサ「は〜い、お天気お姉さんの日高アリサで〜す☆」


 アユミ「ゴホン・・!」
アリサの軽いノリに、部屋の端で腕を組んで座っていたアユミ先生が
咳払いで注意する。


 アリサ「じゃ、改めて・・本日7時に出た“ムゥリアン予報”ですが・・・」
まるで何事もなかったかのように真顔に切り変わり、続ける・・





ムゥリアンが“自然災害”という認識で日常に存在する世界・・

30年にも渡る戦いは、これらの出現予測を確立し
その的中率は80%以上となった現在・・・

『ムゥリアン予報』は、“天気予報”と同じ様に根付き、
避難義務・防衛義務という観点からも、誰でもが自由に見る事が出来る。

当然ながらそれは、ムゥリアンの局地的な襲撃に合わせて
市や街といった、かなり狭い範囲での予測が可能となっている。



 アリサ「―――・・七日市の出現確率は10%未満。
     観測所からの詳細データでは、彩花街も同様です」

 アリサ「補足として・・
     今月に入ってからの近隣4市でのムゥリアン出現件数は1件のみ。
     3日前に羽田野市で、極・小規模なものがありましたが・・
     地元の防衛団が殲滅に成功しているため
     こちらへの侵攻の心配はないとの事です。・・以上」

 ユミ「ありがとう。
    ・・では本日の訓練は
    フリーのAメニューで行きたいと思います」



防衛団員が戦闘で扱う『UE兵器』は
“疲労感”を消費して使うものであるため
ムゥリアン予報を基準に、1日のトレーニングの方向を決める。

いざ戦闘になったさい、
トレーニングでバテバテになっていた・・では話にならないからだ。

当然ながら出現確率が低いほど、自由且つハードなメニューが可能であり
高いほど、体力消耗に直結する訓練は制限され、待機場所も限定される。



 ユミ「―――・・じゃあ、今日のミーティングはここまでにしましょう。」



各々席を立つ・・・。


 アリサ「通信班のみんなはちょっと集合〜」
 タエコ「・・何だろ?」
 スミ「コウ、先に教室行ってて」

 コウ「あ、私も少し用があるから・・」
 スミ「そぉ?」



・・・作戦室に残る者、退室する者・・・。



 コウ「・・あの、ユミ先輩!」
 ユミ「ん?」
その場で手帳に何かを書き込んでいるユミに声をかける・・

 コウ「えっと・・シミュレーターというのをやりたいんですけどっ!」

 ユミ「あぁ〜・・フフ、カナコとの件ね?」
 コウ「え?、あ・・は、はい!」
   (どうして知ってるんだろ・・・?)

 ユミ「お昼休み来れるかしら?」
 コウ「はい!」
 ユミ「そうね〜・・じゃあ昼食を済ませて・・
    1時前にシミュレータールームの前に来てちょうだい」

 コウ「はい!、宜しくお願いしますっ!!」
炎が灯ったような力強い目をしながら、ズズイと顔を近づける・・

 ユミ「え、えぇ・・・;」
   (こ、こんな娘だったかしら・・・?、・・顔近い;)




・・・




 コウ(よしっ!、やるぞぉー!!)
朝からやる気全開のコウは、歩幅を大きく・・勇ましくズンズンと歩き
作戦室を出ようと、少し強めにドアを開ける・・

と、直ぐ目の前に誰かの背中があり、勢いのままぶつかる・・

 コウ「っわた!?」
 ???「・・っと!?」

コウにぶつかられた相手が、何事かと振り向く・・

『歩兵(突撃班)』の2年、『佐伯 トキエ』だった。
癖っ毛を縛るように束ねた髪と、日焼した肌はどこか野生的で、
剃り込みの入った眉と、一際目立つ頬の傷は・・
正直、一般生徒から見ると、恐い印象を覚える少女だ。


 コウ「!?、ごごごめんなさいっ!?」
 トキエ「?・・・あぁ〜転校生の・・」
 コウ「ちゃんと前見てなくて!、すみません!;」
 トキエ「ハハ、タメなんだしそこまで畏まらなくていーよ。
     ってかアタシも変なところで立ち止まってたしさ・・」
 コウ(アレ?、気さく・・・な人?)

 トキエ「・・そういやちゃんと話すのは始めてだよな?」
 コウ「う、うん、そうだね・・」
 トキエ「アンタ、ユエのダチなんだろ?」
 コウ「え・・?」
 トキエ「班分けの時、親しげに喋ってたじゃん」
 コウ「!?!?・・・き、聞いてたの!??」
 トキエ「?、聞かれてまずい話でもしてたのか?w」
 コウ「ん、んーん!」
 トキエ「ま、いいけどさ・・」
 コウ「あの・・」


 ???「ちょっとトキエ、早く行くわよ!!」
コウが何かを言いかけようとした時
離れたところから、一際通る声が割って入る・・


 トキエ「んだよ・・今喋ってるとこだろ、カナコ」

 コウ「!・・・・・」


通路の先でカナコとユエが、こちらを見ている・・・
が、彼女達からは作戦室内にいるコウの姿は見えていないため
トキエを急かす言葉が次々と出る・・


 トキエ「っせーな・・じゃ、またな」
 コウ「あ、うん・・」

言いかけた言葉など無かったかのように、
コウは笑顔を作ってトキエに合わせる・・。

トキエもそれを見て、その場をさっさと後に・・
促がすカナコ達と合流し、1階に下りて行く・・・・・。






 コウ「・・・ハァ・・・・・」

昨日の件もあってか、カナコと親しいと解った途端
トキエに対して、どこか遠慮がちになってしまったのは否めない。

彼女達に悪気はない・・
ただタイミングや見える角度の悪さが重なっただけだ・・
しかしコウは、それを小さな疎外感と受けてしまう・・・。



 コウ(・・・!?、ダメダメ!弱気禁物!。
    うん!、そのために今日から頑張るんだからっ!!)
気合を入れ直す・・・その目は力強い。






小学校の頃、避難が遅れて脅えていた自分を救出してくれた騎士様・・
そのカッコ良さが、子供心にあまりに衝撃的過ぎた事で、
三枝女子に、騎士様に憧れ転校までしてきたコウ・・・

しかしながら、騎士様というものへの知識はハッキリ言って浅かった・・

活動内容などはぶっちゃけ二の次、
騎士様それ自体が“キラキラ”したものであり、その輝きばかりに憧れた・・
実質のない憧れは妄想で補われ、輝きはより強く、強く・・
憧れ妄想スパイラルへとなって・・・・・。

そう、小さな女の子が「アイドル」や「お姫様」に憧れるアレである。


コウという少女は・・
事勿れ主義のように見えて、意外と強情な面がある。
そしてプラス傾向への妄想が強い。
これらが合致した時、途端に妙な行動力を発揮する。

三枝女子への転校はその典型だ・・・。




彼女の本質は、“アホ”と言ってもいい。




アホだからこそ・・
自分の気持ちや考えに素直に取り組める。
自分の考える事、する事に夢中になれる。


コウのモチベーションが朝から異常に高いのは、
彼女のこの性質によるものだ・・

今回、思わず勢いでする事になった“カナコとの勝負”に
昨日の衝動的な対抗心ではない、
自分なりの新たな目的を見出せたからに他ならない。


 コウ(・・そうだよ!桐原さんとだって仲良くなってみせるんだから!!)

 コウ(イサミちゃんだって応援してくれてるっ!、うん!
    ここでちゃんと頑張れば、ビッグチャンス到来ですよ私!)

 コウ(でもこれで桐原さんに認められたら
    私も少しは“キラキラ”出ちゃったりしちゃったり・・!?ムフフ
    ってダメダメ!煩悩退散!、喝ぁーつ!!)

 コウ「(ブツブツ・・)」







そんな感じで、ドアの前で1人やる気を再確認しているコウ・・・。






 シノブ「―――ちょっと、いつまでそこに立ってるのかしら?」

 コウ「っっっ!?」
ハッ!と言うより、ビクッ!?とした感じで我に返り、振り向くと・・

整備班2年の小笠原シノブが、腰に手を当て、眉間にシワを寄せ
つま先をコツコツ鳴らしながらコウを睨んでいる・・

 シノブ「ドアの前でそうされてると、いい加減邪魔なんですけど」

 コウ「!?、あわわ、ご、ごめんなさい!;」
   (私またやっちゃった!?;)



 アカネ「・・堪忍な、シノブは常時イライラしとる娘ぉやからw」
シノブの後ろから、同整備班2年の淡路アカネがヒョコりと顔を出す・・

 シノブ「アカネさん!、貴方いつもいつも失礼ねっ!!」
 アカネ「おぉ〜恐っ」

 コウ「で、でも原因は私だから・・ゴメンね;」
苦笑いでササッと道を譲るコウ

その改めての謝罪に心を良くしたのか・・
それともアカネの横槍によって、コウへのマイナスイメージが和らいだのか・・
どちらにせよ、シノブの眉間のシワが消える。

そして仕切り直しのように、軽く咳払いをし、続ける・・
 シノブ「良い心掛けです。
     美里さん・・でしたっけ?、
     以後気を付けて下されば、私も口煩くしません」

 アカネ「ホンマかいな?」
アカネをギロリと睨み付けるシノブ

 シノブ「・・これから同じ防衛団として、街の平和のため頑張りましょう」
 コウ「あ・・・うん!、宜しく!」
 アカネ「ウチもウチも!w」
 コウ「ハハw」
   (ホッ・・・)


 シイナ「・・随分楽しそうね?」
そんな3人の姿を見て、まだ作戦室に残っていたシイナが輪に入って来る・・




・・・




 アカネ「なんや!、シーナ先輩のお隣さんかいな!」
 コウ「うん」
 アカネ「ほな近い内に乗り込まなあかんな〜・・ニシシ」
 シノブ「迷惑でしょ!・・ねぇ?」
 コウ「あ、そんな事ないけど・・・
    出来ればもう少し待ってくれると有り難いな〜・・とか」(^^;)
 アカネ「?、何かあるん?」
 シノブ「当然です。彼女は防衛団員としてはまだ新米・・
     色々と覚えなければいけない事があります」
 コウ「うん!、だから・・」

 アカネ「あ〜・・」
妙に納得するアカネ

 シノブ「自覚があるのは良い事です。アカネさんも見習いなさい」

 アカネ「いちいち五月蝿いやっちゃな・・」
 シノブ「はぁー!?、貴方にだけは言われたくありませんっ!!」

アカネとシノブが口喧嘩をはじめる・・
しかしそこに悪意的なものは感じられない・・・。


 コウ(・・対照的だと思ったけど・・・
    この2人って実は似た者同士・・なのかな?(^^;))





 シイナ「・・・この防衛団で特に大切なものって何だか解る?」
2人の口喧嘩を余所に、コウに訪ねる・・

 コウ「え・・・・・?」

 シイナ「・・ああやって毎日のように口喧嘩してても
     内心ではお互い認め合ってるから、
     整備班って良い意味で賑やかなのよ・・」



 コウ「・・・・・ゆ、友情・・とかですか?」
 シイナ(この娘ストレートね)
    「正解ではあるけど、コウならぶっちゃけアタシにそれを感じれる?」

 コウ「え、えっと・・」
 シイナ「アハハ、気にしなくていいわよ。
     それなりに長い付き合いでもない限り、
     上の学年の相手にそういう感情って湧き難いものだしw」

 コウ「は、はぁ・・」
   (確かに・・同学年ならまだしも・・・)


 シイナ「・・答えは“信頼”」


 シイナ「ってまぁ〜・・友情でも全然いいんだけどねw
     信頼って言葉の方がよりしっくり来る的な?」

 シイナ「“信頼できるから・・信頼されているから・・・”。
     これなら学年も、個人の性格も関係なくひっくるめれるでしょ?
     一つの目的で動く組織としては」
 コウ「は、はぁ・・」
 シイナ「ユミが後から皆に言うだろうけど・・
     代々ここで受け継がれてる言葉ね☆」

 コウ(信頼・・かぁ〜・・・)



 シイナ「・・でも実際のところ、信頼って簡単に口で言っても、
     それに伴ったモノがなけりゃ虚しいだけなのよねw」

 コウ「・・・;」

 シイナ「そういう点では、貴方やウチの子達(班員)が
     まずは防衛団員としてある程度出来てから・・
     ・・って事で纏まってくれて、嬉しいわ☆」

 コウ(・・う、ウィンクが眩しい・・・!)


 シイナ「ここで“信頼”と一緒に受け継がれてる、
     もう一つの言葉・・“努力”が登場♪」

 コウ「・・・」

 シイナ「力を少しずつでもいいから身に付ける・・。
     そうすればそこに、信頼は自然と生まれる・・・」



・・とそこに、部屋を出ようとこちらに歩いて来たユミが
会話の流れを読み、シイナの言葉に続ける・・・


 ユミ「努力と信頼は常に共にある・・・ね」(^^)

 シイナ「イエス、ナイスタイミング♪w」

 ユミ「フフ・・」
 シイナ「アハハ」

ほんの少ない言葉のやり取りなのだが、
どこかお互いを解り合っているような雰囲気が感じ取れる・・・




 コウ:ザワワッ!!
   (わっ・・・!、な、なんか御二人共カッコイイ・・!!!)
三枝女子 防衛団に代々継がれる言葉、
ユミとシイナが作り出す、“先輩同士”特有の余裕ある空気感に・・
コウは(良い意味での)鳥肌が立っていた・・・。

それはそこに同席しているアカネとシノブも同じであり、
ついさっきまであれだけしていた口喧嘩もピタリと止まっていた・・・。



 シイナ「アタシ精神論とか根性論ってあんまり好きじゃないんだけど
     この言葉には毎回納得ね、うん」
 ユミ「フフ・・1年の頃の貴方風に言えば・・
    信頼を得るための合理的手段・・かしら?」(^^)
 シイナ「もぉ!、それを言ったら野暮でしょw」



 コウ(・・・・・そっか!・・・桐原さんが昨日言いたかったのって・・・・・!!)



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by: へろ
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