彩花の騎士
ストーリー 11

班分けが終了した防衛団の生徒達は、『作戦室』から出

騎士の館、左側の建物・・『格納庫』に移動する。



外観こそ体育館とも巨大倉庫とも取れるが、その中には・・

6m程の人型ロボット・・白い『ディアース』が3機、
壁側にズラリと並べられており

クレーンやリフト、大型トレーラー、謎の計器類など・・
学校とは完全に異なる、独特の空間が広がっている・・・。



そんな『格納庫(兼 整備庫)』の中央には、開けたスペースがあり・・

そこには、テーブルを2つ繋げ、白い布がかけられた
即席の長く大きいテーブルが・・。

その上に、格納庫の雰囲気とはギャップが激しい
クッキーやスティックチョコ、スナック等の色とりどりのお菓子や、
軽めのスイーツが盛り付けられた大皿が7つ程・・
大サイズのペットボトルのジュースが数種類、
ティーポットとカップのセット・・・等々が並べられていた。




小腹が空きだす夕方前の時間帯
当然ながら、多くの生徒達にそれは魅力的に映る・・・

・・が、先に格納庫へ来、この準備をしていたキリア先生とサナエ先生は
生徒達をディアースの足元に誘導し、テーブルをスルーさせる・・・。

 タエコ&チカ「生殺しだ〜・・・」
 アユミ「いいから並べ。
     学年や班は関係ないから、背の低い者はなるべく前にな」


まずは今年度防衛団による記念撮影をするとの事で、
生徒達はディアースの前に用意された足場に、
それぞれ身長を見合わせながら並んでいく・・。



・・・



お菓子を並べる準備も手伝っていたのであろう
袖を捲り、エプロンをした新聞部のヨシコと、そのアシスタントの2年生が
張り切ってこの記念撮影を担当する。


 ヨシコ「レイちゃんもちっとだけ光頂戴・・・うん、OK!。
     では皆さん、いきますよ〜・・・」




 ヨシコ「―――・・・はいオッケーで〜す♪」
満足気なヨシコ



・・撮影が終わり、足場から下りてくる生徒達に
レイちゃんと呼ばれていたアシスタントの新聞部部員が
次々に紙のコップと皿を手渡す・・・。

一方で、アユミ先生はユミを呼び、何かを話している・・・。





『親睦会』。

これから1年間、共に戦っていく仲間同士、親交を深めるために
毎年、結成式の後に行われている、三枝女子 防衛団の恒例行事である。





――・・紙のコップと皿が全員に行き渡ったタイミングで
今年度団長のユミが軽い音頭を取り、親睦会は開始した・・・。




・・とはいえ、特に何か出し物があるわけでもないこの会は
フリーの立食会のようなものである。

自由行動の探りを入れる意味でも
1、2年生達は、まずは自分が所属する班の先輩・・3年生達の元に行き
ちゃんとした挨拶も兼ねて、各班がそれぞれグループを作る・・・。



ヨシコはそれを待ってましたとばかりに、着ていたエプロンを丸め
水を得た魚の如く、班ごとの自由撮影をはじめる・・・。






――――・・・







テーブルの一角に集まる『ディアース班』の面々。


ユミを中心に、右側を完全に陣取るイサミ・・
左側でお菓子をむしゃむしゃ食べるチカ。

コウはイサミの隣に立ち、ユミに対して若干出遅れた感を抱いていた・・・。



ユミの紙コップにジュースを丁寧に注ぐイサミ・・

 ユミ「ありがとう」

 コウ「私も貰えるかな?」
 イサミ「どうぞ」

と・・ユミとは対照的に、ペットボトルをまるまる手渡される・・

 コウ「あ、ありがとう・・・;」
   (・・・や、やっぱりこういう扱いの差って・・あるのかな;)


 チカ「コウ先輩!、その変な形のチョコ取ってもらえますか!」
 コウ「・・え?、どれ?」
 チカ「そのぐにゃぐにゃのハートみたいなのです」
 コウ「あ、コレね・・」

チカが出した紙皿に、目の前にあるプレッツェルチョコを2、3個置く・・

 チカ「ありがとうございます!!」

 ユミ「・・じゃあ私もそれ頂こうかしら」
 コウ「あ!、はい!!」

 イサミ「美里先輩、私がやります」
 コウ「え?、いいよいいよ」
   (せっかくユミ先輩が“私に”言ってくれたんだから・・)
 イサミ「いいえ、こういうのは後輩の仕事ですから」

とは言うものの、イサミの行動はユミを独占したいようにも見える。

 コウ「・・・・・」




 ユミ「・・3人とも、少しディアースを見てみない?」

 イサミ「はい!」
 コウ「あ!、はい!」
 チカ「賛成!」







―――・・・一番端のディアースの下に集まり、
それを見上げるディアース班の4人。

 コウ「こんなに近くで見るの初めてです・・・」
 ユミ「愛称は『コスモス』。
    私達のパートナーであり、
    手となり足となり、剣となり盾となる機体よ」

ユミの言葉と、目の前にある実物のディアースが
新人3人の防衛団としての実感をより強くする・・・。



 チカ「くぅ〜・・カッコイイ!。
    まさに「行くぜ相棒!」ッスね!!」
 コウ「・・あ!、それ知ってる
    昔やってたディアースのアニメだよね?」

 ユミ&イサミ「???」

 チカ「そうです!、『バトルアタッカー豪』です!!」
 コウ「そうそう、そんな名前だったw」
 チカ「コウ先輩も見てたんですかっ!」
 コウ「・・・ほんの少しだけね(^^;)」


 チカ「アタシはガチで見てましたよ!、バト豪!。
    ♪豪〜ファイ、豪〜ファイ♪」

テーマソングらしきものを口ずさみながら
得意げに右手で2、3回、空をジャブするチカ。

 コウ「ハ、ハハ・・」


 ユミ「・・な〜に、そのバトル・・??」
 チカ「『バトルアタッカー豪』ですよ!、
    小4の時、夕方の3チャンでやってたアニメです!!」
 ユミ「そうなんだ・・私あまりテレビは見ないから知らないけど・・
    ワクワクしそうなタイトルね(^^)」
 チカ「はい!!、もぉワックワクのメッラメラですよ!!」
 ユミ「フフ・・」

 コウ(・・・ユミ先輩ってこういうの・・・有り・・なのかな・・・???)

 イサミ「フンッ・・二階堂チカ、
     私達がするのは現実の戦いであって、アニメではないのだぞ」
 チカ「分かってるよそんな事」
 イサミ「なら結構、あまり子供染みた事はしないでくれ。
     班の程度が下がる」
 チカ「なにをぉー!!!=3」
 イサミ「あんな子供騙しの何が楽しいのだ・・」

言葉にならない怒りの表情のチカ・・。



雲行きが怪しくなりそうな雰囲気に、不安になるコウ



 ユミ「・・・・・イサミ、貴方のその真面目さはとても良い事よ」
 イサミ「有り難う御座います」

 ユミ「でもね・・だからと言って、
    チカの趣味を悪く言うのはあまり感心できないわね」
 イサミ「・・!?」
 ユミ「もちろん人それぞれ好みがあるのは当然だけど・・」
 イサミ「はい」
 ユミ「・・それを否定するよりも、相手の面白さとして認めた方が
    ずっと素敵な事だと思わない?(^^)」

 イサミ「・・・・・・・私には何とも・・」
 ユミ「・・・そうかしら?」
 イサミ「・・・・・」
 ユミ「そうね、急には無理かもしれないわね・・
    私にも貴方みたいな時期があったから解るわ」

 イサミ「・・・・・」
 ユミ「・・でも私達はチームなんだから・・
    貴方の言うように、アニメではなくて実際の戦いをするのなら尚の事
    これからお互いを認め合っていく事が大事だと思うの」
 イサミ「・・・・・」

イサミに優しく説くユミの背で
チカがイサミに向って、お猿のような顔で舌を出す・・

 ユミ「チカも!」

 チカ「!?!?、はひ!」

 ユミ「もちろん私も、そしてコウも・・」

納得の表情で応えるコウ。
 コウ(あぁ〜やっぱりユミ先輩素敵だ〜・・・v
    それに比べて私の存在感のなさ!・・・・・orz)



 イサミ「・・・・・お姉様がそう仰るのなら、私は従うまでです」


 ユミ「・・・・・」
   (・・私が言ったから・・か・・・・・ホント、あの頃の私にそっくりね・・・)


少し複雑な表情をするユミは
ふと、事の成り行きを見守っていたコウに目を向ける・・・。

 ユミ(・・・そうね・・私よりも・・・・・)







微妙な空気になってしまったディアース班・・

そんな時・・




 ???「出たで“センヒメポーズ”!!、ウチこれめっちゃ好き!w」
 ???「アカネさん!、耳元で大きな声を出さないでちょうだい!!」


一際大きく響く関西弁と、それに文句を言う通る声・・・


コウをはじめ、多くの生徒達がそれに興味を示し、
声がした一角、計器類の辺りに集まるグループに視線が集中する・・・。



そこには『整備班』の面々が
モニターを食い入るように見ていた・・・。

キリア先生、シイナ・・そして残りの3名・・・

『淡路 アカネ』
関西弁が特徴の、飛び跳ねまくった散切り頭の2年生。

『小笠原 シノブ』
アカネとは対照的に
前髪をヘアピンでピッチリ止めた、おかっぱの2年生。

『閃 モトコ』
小学生のような背の低い、メガネっ娘の1年生。

・・・である。








 コウ「―――・・センヒメポーズって何でしょう・・・?」

それに便乗し、話題を変えて空気を入れ替えようと
コウはユミに問いかける・・

だが、ユミは答えを焦らすように微笑みで返す

 コウ(・・・えぇー!、なんですかその意味深な笑顔・・???;)


 チカ「何だろ何だろ・・?」
一方で、小さな子供のように、次の新しい興味に飛び付き
今までの出来事などバッサリ捨て
そそくさと整備班のもとに軽い足取りで向うチカ・・

 コウ(チカちゃんはチカちゃんで良い性格してるな〜・・・)





・・・ディアース班内、しばらくの沈黙。





 イサミ「・・・・・・・・・。
     美里先輩、そんな事も知らないでディアース班にいるのですか」
 コウ「え?、あ・・ゴメン;」

と・・まるで痺れを切らせたかのように、イサミが口を開く・・

 コウ「良かったら教えてくれるかな・・イサミちゃん」
 イサミ「ちゃん付けは止めて下さい」
 コウ「え・・でも・・・」

 イサミ「私の事は呼び捨てで結構です。
     それよりセンヒメポーズと言うのは・・・」



30年前のムゥリアン戦争後、いくつもの掃討作戦にて
数多くの一騎当千伝説を残した、現役時代の三枝シマ校長・・
彼女を語る上で欠かせないのが、
その当時駆った専用機体(ディアース)・・『センヒメ』である。

センヒメは戦場に現れるさい、
腕を組んで仁王立ちのポーズで現れる事が多く
この格好を指して、“センヒメポーズ”という言葉が生まれた。

その威風堂々とした姿、
そして圧倒的な強さ、大胆且つ華麗な様は
前線の士気を上げ、復興に勇気をあたえ・・

“戦闘記録映像アーカイブ”へのアクセスランキングでは、
10年連続1位をとった、外伝的な伝説も残っている程・・
特定の世代やファンにはメジャーなポーズなのである。



 イサミ「―――・・それがセンヒメポーズなんです」
 コウ「そうなんだ・・・やっぱり校長先生って凄い人なんだね」
 イサミ「当然です」

そう説明するイサミの声は、明らかに今までより高く、
それでいて饒舌である・・

 コウ(・・・・・イサミちゃんって、もしかして・・・??)

そんなイサミを見ると
コウは、今までの流れで勝手に作っていた彼女へのイメージとは少し違う
何かを感じずにはいられなかった・・・。





 ユミ「―――じゃあ私達もディアース班だし、少し見せてもらいましょうか」

その言葉に賛同するコウとイサミ。





整備班の元へ向うイサミの足取りは心なしか早い・・・

そんな彼女の後を、コウとユミは間を空けて続く・・


 ユミ「・・・コウ」
 コウ「は、はい」
 ユミ「フフ、そんなに緊張しないで・・」
 コウ「あ、いえ・・」
 ユミ「少しお願いがあるのだけれど・・・」
 コウ「・・?」

 ユミ「貴方、なるべくイサミに付いていてくれないかしら」
 コウ「え・・・?」
 ユミ「もちろん貴方も転校生だから1年生同様、
    まだ防衛団の事はあまり分からないから・・」
 コウ「はい・・」
 ユミ「日常的な事でいいの、少し踏み込んだぐらいに・・ね?」
 コウ「???・・・そういう事なら・・はい・・・
    私も出来るなら仲良くなりたいですし・・・」

 ユミ「ありがとう(^^)」

 コウ「いえ・・・・・」
頬を少し赤らめて下を向くコウ・・
どんな内容であれ、憧れている人から
個人的に話し掛けられるのは嬉しい事である。





―――





整備班の元には、ディアース班以外にも
興味を持った生徒達が次々と集まる・・・

そしてその全員が、
モニターに映し出されている『センヒメ』の勇姿に目を奪われた・・・

特異な形の槍をはじめ、刀、銃器、重火器・・・
あらゆる武器を自由自在に使いこなし
今の時代では見る事が少なくなった、危険度の高いムゥリアン達を
次々と華麗に殲滅する姿は・・まさにその名が示す“戦姫”である。





 モトコ「―――・・何度見ても凄い戦い方ですね・・・」
映像が一区切りしたところで、
整備班の新人・・小柄な少女『閃 モトコ』が言葉を出す。

 シノブ「でもこの映像・・加工とかしてるんじゃない?。
     『センヒメ』って・・
     『鋼の乙女』が大戦時に駆った『メシア』の改修機よね?
     第1世代も第1世代なディアースがこんな無茶苦茶な動き・・」
 アカネ「相変らず冷めるやっちゃな〜・・」

 シイナ「この映像は本物よ。
     アタシこの学校に入って直ぐ、校長先生本人に聞きに行ったしw」

 キリア「まぁ小笠原が疑うのも無理はないな・・・。
     第1世代・・というより
     最新鋭の第4世代型でもこの動きは不可能だろう」

 モトコ「確か・・・
     “メサイアコーティング”というのを施してあるんですよね?」

 キリア「そうだ。
     メシア・・それを改修したセンヒメをはじめとする
     鋼の乙女の専用機“10体”にのみ使われた技術だ」

 アカネ「何ですのんそれ?」

 キリア「ウルズマイトの粒子を機体の内外全てにコートするんだが・・
     これに魔法力を通すと、機能という機能が活性化する。
     目に見えての動きや攻撃力、防御力はもちろん、
     イメージトレースの処理能力といったところまでな。
     スペック的には本来の機体の数倍〜数十倍規模で」

 シノブ「随分と非常識な話ですね」
 キリア「ウルズマイトや魔法力自体がそういうものだろ?」

 アカネ「何でそんな便利なもん、その10体にしか使わへんのですか?」

 キリア「消費する魔法力・・疲労感が膨大過ぎるからだ。
     それこそ鋼の乙女のSS、SSSランクといった
     超高ランク適合者だからこそ扱えた技術と言っていい」

 アカネ「うまい話はないと・・・」
 キリア「Aランク適合者の屈強な軍人が10秒持たずに気絶したと聞くぞ」

 シイナ「まさに時代ですね」

 キリア「あぁ・・。大戦からしばらくは
     安全性よりも戦闘力が最優先された時代だったろうから
     今では封印された危険な技術も沢山あるだろうな・・・」

 シイナ「凄すぎて逆に参考にならない・・
     ホント、コレクター向けの映像よね・・コレw」
 モトコ「(^^;)」


 シノブ「そうです。今は昔と戦闘の規模も仕方も違えば
     パイロットへの安全や、周囲への被害に気を向けるのが基本。
     今は今に合った戦い方、メンテナンスをしなくては!」

 キリア「うむ。いかに安全に、確実に、最小限の被害に・・だな。
     横道に外れてしまったが・・モトコ、
     改めてウチの『コスモス』の基本性能についてだが・・・―――」



センヒメの戦闘映像が終わり、
整備班の小難しい話がはじまると、集まっていたそれ以外の生徒達は
徐々にその場から離れはじめる・・・。






 コウ「・・・話の内容はよく解らなかったけど
    整備班のみんなも、校長先生が凄いって言ってるみたいだったね」
 イサミ「私達もあの方・・ゴホン!
     ・・校長先生の偉功に恥じないよう努力しないといけません」
 コウ「そ、そうだね・・・!!」



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by: へろ
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