彩花の騎士
ストーリー 09

月曜日、朝。

登校中・・・


 コウ「―――んしょ・・」

校門まで続くひたすら長く急な上り坂・・の手前で自転車から降りる。


先週まではこの坂を、自転車に乗ったまま無理矢理登っていたコウだが
効率が良くない事が解り、今日からは素直に押して登る・・・。


コウが自転車から降りた場所・・つまり急な上り坂のスタート地点は
三枝女学園専用の送迎バスが停車する所でもあるため
ここを境に、坂には一気に生徒達が溢れ出す・・・。



 生徒「おはようございます!」
 コウ「?・・あ、おはよう」

・・と、まったく知らない1年生から挨拶され
一瞬戸惑うものの、合わせる感じでそれに返すコウ

 コウ(・・・誰・・・だったかな?、アパートの子でもないし・・・)

そんな事を考えながら、校門を目指していると・・
すれ違う何人かの1、2年生から挨拶や会釈を受ける。


 コウ(あ!・・そうか・・・!)

ここまで知らない生徒達から挨拶を受け続けると
流石にコウも、その意味は理解できた。

 コウ(これが騎士様の扱いなんだ♪。
    こうやって注目されてるのって、恥ずかしいけど何か嬉しいな〜♪
    フフ、まだ何にもしてないんだけど・・・w)

そう浮かれたのも束の間・・

 コウ(・・でもやっぱり・・・・・
    どう考えても私、肩書き負けしてるよね・・・・・;)

自らもずっと&勝手に抱いていた、騎士様への“キラキラとした憧れ像”と、
自分の“地味さ”という現実に、思わず小さな溜め息が出てしまう・・・。


 コウ(こんな地味っ子ジミーでもいいんですか?、騎士様ファンの皆さん・・・)

そんなコウの微妙な気分を余所に・・・



後方から、朝の通学路には似付かわしくない
黄色い声が聞こえて来た・・

 コウ「・・?」

コウは、単なる確認程度に顔を振り向かせると
その声を受けたであろう人物に、一瞬で目を奪われる・・・・・




その人物が3年生である事は、腕章の色を見れば直ぐに解ったが
おそらくそれが無くとも解ったであろう・・1、2年生にはない・・
堂々と、それでいて落ち着きのある仕草・・オーラと呼ぶべきものを纏っていた。

そしてその人物が騎士様であろう事も、回りの反応を見れば
直ぐに推測できた・・・。


 コウ「・・・・・・・」


腰まで届くロングヘアー・・
深い海のような髪色に、一際目立つ白いカチューシャ・・・。
初見で“お姉様”と呼んでしまいそうな、ブーツが似合うその3年生は

回りから受ける挨拶に、分け隔てなく微笑みで返しながらも
どこか近寄り難い空気を出しており、半径1m弱のスペースには
ディープな騎士様ファンであろう生徒達も、容易に近づく事はなかった。


 コウ(・・・い・・いた!・・・・・私の抱いていた騎士様だよ!!!
    本物だ!、本物の騎士様はやっぱり・・キ、キラキラなんだーっ!!!!!)


思わず足を止め、鼻息荒めで見惚れるコウ・・・



そんな彼女の横を、その3年生が
ロングヘアーをフワリと靡かせ通り過ぎると・・
目で見て感じていた“近寄り難いキラキラオーラ”とは真逆の
とても柔らかく、包み込んでくれるような・・そんな優しい香りがした・・・。

 コウ(・・え・・・?)

それは、あの半径1m弱のスペースに入らないと分からない程度の
ごく自然な香りであり、
香水のような押し付けがましい匂いとは全く違うものであった。


 コウ(・・・・・・???・・・あんなにキラキラして私と全然違うのに・・
    なんだろ・・この親近感みたいなの・・・・・?)






―――――






教室。始業前。


 タエコ「―――それユミ先輩ね、3年生の『真矢 ユミ』先輩。
     にしても“キラキラ”って・・・何そのメルヘン表現w」
 コウ「でもわかるでしょ?」
 スミ「フフ・・コウらしくて良い表現なんじゃない?」
 タエコ「ま〜解らないでもないけど・・
     実際、3年生のお姉様方は個性的で輝いてるし・・」

その言葉にキラリと目を輝かせるコウ・・

それを見たタエコが、瞬時に“面倒な”琴線に触れてしまったと察知し・・

 タエコ「放課後には防衛団全員の顔合わせがあるし・・・
     アンタもアタシ等から聞くより、そこで見た方がいいでしょ?」
 コウ「え?、あ、うん!」
 タエコ「んじゃこの話題は終了ね〜w」

サラリと騎士様関係の話を終了させた。





―――――・・・・・






今週からは授業も通常編成となり
本当の意味で新たな学園生活が動き出す・・・






・・・・・






キーンコーンカーンコーン・・・

3時間目終了。


 コウ「んーーーーーっ!」

三枝女子での初めての授業という事もあって
1、2時間目は色々と緊張していたコウだったが
流石に3時間目を過ぎると、その集中力は途切れだし・・

教師が退室すると同時に
これでもかというぐらい大きな背伸びを、座りながら行なう・・

 コウ「・・〜〜〜!、あ!、ごめんなさい;」
腕を伸ばしたまま、体を仰け反らせると
後ろの席の生徒に邪魔になっている事に気付き、慌てて背伸びを止め

席を立つ・・・



廊下に出たコウは、腰を2、3度捻った後

なんとなく廊下(2階)の窓から中庭を見下ろした・・・




 1年生「ミヨぉー!、投げてぇー!!」


・・と、見覚えのある1年生が
中庭から、1階の廊下に向って叫んでいる。

おでこが光るショートカット、首に巻かれたセーラースカーフ・・
先週の“新しい騎士様への説明会”で一際目立っていた
1年生の『二階堂 チカ』である。


 コウ(あ!・・あの娘・・・)



 ???「いくよバカチカ!」
 チカ「バカって言うなぁー!!」



コウの場所からは見えないが、
1階にいる誰かとやり取りをしているらしく・・

チカに向ってシューズ袋が勢いよく投げられる

 チカ「・・っと!、サンキュー♪」




 コウ(あの娘も今日から私と同じ騎士様・・)







―――――・・・・・







昼休み。

別館3階『食堂』。


入口付近に食券の自販機が2台。
そこから進むと、左側にメニューを受け取るカウンターがあり

右側には、少し大きめの丸いテーブル1つにつき、5〜6つのイス・・のセットが
ゆとりをもって並べられている。

ガラス張りの壁から入る陽射しは、食堂全体を明るく照らし
そこから見える景色は、遠く離れた市街地も一望できる見晴らしの良さであり
とても気分良く食事を取れる空間・・・。



ただ、昼休み開始10分頃からは、
そんな悠長な気分にはあまり浸っていられない・・・

混雑がピークに達するからだ。

空席を探す方が難しいこの時間帯では
細分化されていないテーブルに、面識のない生徒同士が常に相席し
4人以上のグループで来た者達は、分散を余儀無くされる。

遠慮などしていると、席に座る事もままならない状態になるのだ・・・



そしてこの日は、授業が通常編成となった最初の日でもあるため
興味本意の1年生も含め、特に多くの生徒達で溢れかえっていた・・・



 タエコ「―――・・・ふ〜・・どうにか3人で座れたわね」

景色が見てれ人気の高い外側の席を避け、
人の往来が激しいカウンター近くの席に座るコウ、スミ、タエコ。

 スミ「ホント、凄い人だね・・・」
 コウ「いただきま〜す!」
 タエコ「早いって!・・今この人ごみから掴み取った席の苦労をだね〜・・」
 コウ「いいよそんなの、麺のびるし。ズズズー・・」
 タエコ「オーマイガッ!
     その食い意地アタシのっ!」
 スミ「アハハ、なんかこうやって3人でテーブル囲むと
    中学校の頃思い出すね」
 コウ「ズズズー・・!。そうそうあの頃タエチーが・・・―――――――」



―――・・・



それから5分もしない内に・・
コウ達より先に、このテーブルで食事を取っていた
面識のない2人の生徒が順に席を立つ・・・


そして空席が出来た数秒後―――


 ???「―――ここの席いいですか?」

すぐさま次の生徒がやってきた・・・

 スミ「どうぞ(^^)」


 ???「ありがとうございます。
     ・・食堂ってこんなに混むんですね・・・」
その生徒は、座りながらこちらに話しかけてくる・・


 コウ「?・・!」
メガネを半曇りにして、天ぷらそばを啜っていたコウが
箸を止め、その生徒を見ると・・・

何となく見覚えのある“背の高い1年生”がそこにいた・・・

 コウ(アレ?・・・・この子確か・・・・・・・)


 タエコ「今日は特に多いわね、ビックリしたでしょ?」
 1年生「はい」


スラッとしたスレンダーな長身と、大きな瞳にメガネが印象的な1年生・・
髪はシンプルに縛っただけで、オシャレ気はないのだが
だからこそ解る、健全ナチュラル美人・・という見た目に

コウのボヤけていた記憶が、じんわり明確になってくる・・・


 コウ「・・あ!、新しい騎士様の・・!!」
 1年生「はい(^^)、『此花 ミヨ』です」


そうである。
先週末に行なわれた“新しい騎士様への説明会”・・
そこにて、『ストーリー上まだ紹介はされていない』が
コウは“1年生”の騎士様達と「顔を知ってる」程度の軽い面識はあるのだ。

 ミヨ「今日から宜しくお願いします」
 コウ「こちらこそ(^^)」
 タエコ「へ〜・・新しい防衛団員なんだ。
     やっぱり後輩が入って来ると、ちょっと気が引き締まるわね」
 スミ「うん。
    ミヨさん・・放課後に顔合わせがあるけど
    私達も防衛団員なの。これから宜しくね(^^)」
 ミヨ「あ!、お二人共ですか!?・・こちらこそ宜しくお願いします!」
 タエコ「宜しく!」

1年生ながら、その出来た態度と姿勢に
コウはもちろんスミやタエコも、ミヨに対して好感を強くもつ。



・・・と、そこに



 ???「ミヨ待ってよぉ〜!!」

ドンブリを乗せたトレイを持って、小走りでやってくる1年生・・
『二階堂 チカ』だ。

 タエコ「!、おぉう・・凄い格好だね・・友達?」
 ミヨ「はい、幼稚園からの腐れ縁というか・・・
    彼女も今日から防衛団でお世話になりますので」
 コウ「二階堂チカちゃん・・だよね?」
 チカ「はいっス!、やや!、先輩は確か・・!」



何の因果か、1つのテーブルに騎士様5人が同席する・・・。


その状況を見た、熱心な騎士様ファンが何人か足を止めるも
流石に食事時は・・という野暮な事をする者はおらず

これといった事は何もなく、5人は気兼ねなく食事を続ける・・・



 チカ「―――予想以上にここの親子丼おいしいっスね!、美味美味」
ドンブリをかき込むチカ

 タエコ「わかる?
     でも女子高仕様なのか、並じゃ少し物足りないのよね〜
     かといって大盛券使うと薄味になるし、
     二杯だと出費が嵩むから・・
     アタシ的には75点で実に惜しいメニューなんだけど・・」
 コウ(タエチー・・相変らず食べ物の事となると饒舌だな〜・・・;)

 チカ「先輩食べそうですからねー!」
 ミヨ「こらチカ!、失礼でしょ!」
 タエコ「アッハッハ!、いいわよ事実だし」

そんなタエコの大笑いに誘われるように、チカも何故か大笑いする・・


その2人を見たコウ、スミ、そしてミヨは
それぞれ顔を見合わせ、苦笑いをした・・・。

しかしそれは、言葉にせずとも今の気持ちを共有できた・・という事でもあり
3人の中に、妙な親近感を生むキッカケにもなっていた。



 コウ(・・・此花ミヨちゃんに、二階堂チカちゃんか・・
    フフ、なんかスミちゃんとタエチーと雰囲気似てるかも)


これから騎士様として行動を共にする2人の1年生に対して
コウは良好な印象を持ち・・

天ぷらそばの最後の一掬いを、ちゅるりと口に入れた・・・・・。



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by: へろ
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