彩花の騎士
ストーリー 08

彩花街北部の山の手からしばらく下りると、平地に出る・・

この辺りまで来ると、ようやく住宅ばかりの景色から
大型スーパーや病院といった施設が目に付くようになる。




今日は土曜日、休日。


春の柔らかい陽射しの下、コウとフミコは
平地にあるホームセンターへ、散歩も兼ねて向っていた・・・。




 コウ「のどかだね〜〜〜(=▽=)」
 フミコ「・・はい」

近場でも自転車でササッと済ませるコウにとって
“歩く”という行為は、妙に新鮮であり
見える景色、流れる時間がとてもゆっくりに感じる・・・。



 コウ「―――あ!、今ウグイス鳴いた!!
    フシュ〜、フシュ〜・・!」
 フミコ「・・・な、何やってるんですか?」
 コウ「口笛ってしばらく吹かないと吹き方忘れない?
    ・・フシュ〜、フシュシュ〜・・・」
 フミコ「ピュ〜〜〜ピュケキョ♪」
 コウ「フミコちゃん上手い!
    フシュ〜!、フュッ、フュッ、フューッ!!、フューッ!!!」
 フミコ「先輩力み過ぎです、落ち着いて下さい」
 コウ「あ〜・・酸欠で頭クラクラする」
 フミコ「・・・・・」





・・・そんなこんなで、ホームセンターに到着。


 コウ「―――まずは座椅子だね!」
 フミコ「はい」

昨晩、コウの部屋にて、
床に直に座ったり、ベッドにもたれ掛かったりする中
「座椅子が便利!、欲しい!」という話で妙に盛り上がり・・・

今日、ここへ来たわけだが・・・。




―――――




 コウ「―――あ!、あったよ!・・・新生活応援セール680円!?、安いっ!」
 フミコ「・・安すぎて逆に心配ですね・・・」
 コウ「鋭いっ!?」



一通り品定めした後、2人は色違いの1580円の座椅子に目星を付け
その場を一端離れる・・・





店内を物色する二人・・・




 フミコ「ティッシュが安いですね・・先輩、買っておきましょう」
 コウ「そうなの?」
 フミコ「はい、こっちに引っ越す前に
     母から色々と値段の目安を聞いてきましたので・・」
 コウ「ふ、フミコちゃんといると私の方が後輩みたいだね;」
 フミコ「・・すみません、出しゃばったまねをして・・・」
 コウ「え!?、違う違うそういう意味じゃなくて!?」
 フミコ「・・知ってますw」
 コウ「もぉ!w」

既に“冗談が通じる仲”にまでなった2人。


これは常に一歩引いて、他人と深く関わろうとしなかったフミコにとって
「革命」と言ってもいい事だ。

しかし、フミコ自身はこの変化にそれ程実感がなかった・・

それはコウという存在が
いかに自然に、抵抗なく彼女に受け入れられたかを意味している。








・・・その後、ホームセンターのお約束のように
2人は水槽が並ぶ熱帯魚コーナーにやって来る。


 コウ「見て見てフミコちゃん!、この大きいの!!」
 フミコ「先輩、声のボリューム抑えて下さい」
 コウ「あ、ゴメンゴメン;
    熱帯魚コーナーって何かワクワクしちゃって、つい・・」
 フミコ「解らないでもないですが・・」

 ???「・・・花の女子高生が休日の昼間っから騒ぐ場所でもないわよね」


・・と、聞き覚えのある声が、フミコの言葉に便乗してツッコンできた・・


 コウ「あ、ヨッシー・・」
 ヨシコ「はぁ〜い♪」
声の主のヨシコは、振り返ったコウに軽く手を振る

 フミコ「?」
    (誰だろ?)

 コウ「こんな所でどうしたの?」
 ヨシコ「それはこっちのセリフよ。
     アタシはデジカメ用のメモリーカード買いに来たけど・・・」
そう言いながら、フミコに目線をやる

 コウ「あぁ!」
その目線の意味に気付く

 コウ「アパートのお隣さんの『富士原 フミコ』ちゃん」
フミコは紹介に合わせて、軽く会釈をする

 ヨシコ「へぇ〜、新しい騎士様同士がお隣さんか〜」
 コウ「知ってたのっ!?」
 ヨシコ「そりゃ新聞部部長の肩書きは飾りじゃないんだし、
     騎士様の顔と名前ぐらいはもぉ目に頭に焼き付けてるわよ。
     ま、お隣さんって情報は初耳でグッジョブだけどね♪。
     ・・フミコさん・・でいいかしら?
     アタシは『田所 ヨシコ』、一応コウの幼馴染って間柄、宜しく」
 フミコ「は、はぁ・・よろしく・・・」

 ヨシコ「で?、騎士様が揃って何してたの?」

 コウ「別に騎士様とかは関係なく私達は仲良いし、今日はただの買物。
    ヨッシーが涎垂らすような事は何もないよ」
 ヨシコ「涎って・・・アタシの認識どんなのよ?w」


 ヨシコ「でもまっ、ここで会ったのも何かの縁だし
     取材いいかしら?、騎士様になっての意気込みとかさ!」

今日は騎士様というものを、あえて“OFF”にしていたコウとフミコは
目を合わせ苦笑いする。


が、特に断る理由もなく・・


一端、ホームセンターの外に出ると
丁度良い具合に、入口付近には鯛焼きの屋台と
日除けのパラソルが付いたテーブルとイスがあった・・・




―――――・・・・・




取材料とでも言うべきか・・
ヨシコは鯛焼きを2人におごる。

 ヨシコ「新年度最初の号は伝統的に「“新”騎士様特集」なのよね
     だから2人には簡単なプロフィールとQ&Aを聞くけど・・
     答え難かったり、答えたくない場合は遠慮なく言ってね
     謎な部分はそれはそれで読者の妄想を掻き立てれるし・・
     まぁ全部謎なのは流石に困るけど・・」




―――・・・





・・・軽い写真撮影も入れ、約30分のインタビューを終える。


 ヨシコ「―――・・・2人とも御疲れ様。
     ちょっと時間とっちゃったわね・・・大丈夫だった?」
 コウ「うん、まぁ・・」
そう言いながらコウは目線でフミコにも問う

フミコは小さく頷き、“問題ない”という意思を示す。

と、それを見たヨシコは満足そうな顔で席を立つ・・

 ヨシコ「それじゃアタシはこれで失礼するわ。
     色々ありがとね♪」
 コウ「うん」
 ヨシコ「んでわ、取材協力感謝しま〜っス☆」
おどけた感じの敬礼を残し
ヨシコはその場を去っていった・・・。






 フミコ「・・・・・ヨシコ先輩って、忙しい人ですね・・」
 コウ「ハハ・・・そだね;
    ・・たぶん、これからこういう事もちょくちょくあると思うよ」
 フミコ(・・騎士様って意外なところで大変なのかも・・・)


妙に疲れた様子の二人は、店内に戻り
目星を付けていた商品を購入し、早々にホームセンターを後にする・・・。






―――――






帰宅の道中。


 フミコ「・・・流石にこの量は重いですね・・」
 コウ「う、うん・・・」

座椅子x2、ティッシュ5箱1セットx4、日用品が入ったビニール袋x2・・
それらを重ね、前をコウが、後ろをフミコが持ち
向き合ったままゆっくりと、ゆっくりとアパートを目指して歩く・・・




 フミコ「・・・先輩、5m先に溝があるので注意して下さい」
 コウ「了解。・・・でも不思議だよね〜」
 フミコ「?」
 コウ「私達仲良くなってから3日連続で
    何かしらの重い荷物持って一緒に歩いてるよねw」
 フミコ「・・そういえばそうですね・・
     一昨日の花見のジュースに、昨日の夕飯の材料・・」
 コウ「何の縁だろねw」
 フミコ「フフ・・ですね」
 コウ「アハハ」
 フミコ「先輩溝!」
 コウ「!?、わっとと!」

 フミコ「・・・向き変わりましょうか?」
 コウ「大丈夫大丈夫」
 フミコ「いえ、大丈夫そうじゃないから言ってるんです」
 コウ「フミコちゃん酷いっ!?(T□T)」

クスクスと笑うフミコ・・


極自然な会話・・・

そんな些細な事が
重い荷物と、アパートまで続く上り坂の苦痛を軽減させる・・・



 フミコ「・・・・・」
 コウ「?、どうかした?」
 フミコ「いえ・・なんでもないです」
そう言ってニコリと微笑んで返すフミコ

 コウ「!?」
表情の変化が乏しいフミコとはいえ、
今までそれなりの頻度で自分に見せてくれた微笑み・・
しかし今見せた微笑みは、“明らかにそのどれとも違う”ものだった・・・

それを向けられた瞬間、コウは文字通り「ドキッ」としたものを感じ
思わず目線を外してしまう・・・。


気まずさ、気恥ずかしさ、心地よさ・・そのどれもが当てはまる妙な感覚・・


フミコもまた、コウの小さな変化を感じ取り
その切っ掛けが自分であると理解すると、急に照れくさくなる・・・


次の話題で空気を戻そうとする2人だが、
気持ちと頭が噛み合わず、何も浮かばない・・・。







・・・と、そんな2人の後ろから
その空気を醒ますように車のクラクションが鳴らされる。


コウとフミコはハッ!とし、
いそいそと道の左端により、車が通り過ぎるのを待つ・・


クラクションを鳴らした水色の軽自動車は、コウ達を追い越すと思いきや
彼女達の横で停車する。


 コウ&フミコ「?」


不思議に思ったコウが、助手席側から運転席を覗くと
こちらに手を振る見知った人物が運転していた

 コウ「シーナ先輩?」

続けて、後部座席の窓が開き
さらに見知った人物が、身を乗り出してきた・・

 コウ「!?、タエチー!?、スミちゃんも!」
 タエコ「コウ!、アンタ携帯持ち歩きなさいよ!、何のための携帯よ!!」

その言葉に、あ!・・と気付くコウ

 コウ「部屋に置いたままだ・・・」




――――




どうやらスミとタエコは、休日を利用し
コウを驚かせようと連絡なしに彼女のアパートへ行ったところ
行き違いとなり・・

仕方なく、コウの部屋のお隣さんであり、
騎士様仲間のシイナの買物に付き合っていたようである・・・。





・・・





 シイナ「―――・・・これでよしっと!」
パンパンッと手を叩き、腰に手を当てるシイナ

 コウ「・・大丈夫ですか?、こんなに沢山乗せて・・・」
 シイナ「ノープロブレムよ」
車の積載量を気にするコウに向って、軽いウィンクで返す。


軽自動車に5人・・
シイナ組とコウ組が買った多数の荷物は、各々が足元や膝に乗せ、
大きい物は屋根に括り付け、ギッチギチな状態で走り出す車・・・




車内。


 シイナ「・・この車はキリア先生とアタシでかなり弄ってて
     大抵の無茶は許容範囲だからw」
 コウ「は、はぁ・・」
   (・・そういえばキリア先生って騎士様の『整備班長』もしてるって
    昨日の説明会で言ってたような・・・)
 シイナ「狭いのだけはどうにもならないんだけどね〜w」


 コウ「・・でも助かりました、シーナ先輩」
 シイナ「ん?、あぁ〜・・
     まさかあれだけの荷物持ってアパートまで歩こうなんて・・
     端から見たらなかなかシュールだったわよ、お二人さんw」
 コウ「ハ、ハハ・・・」
 フミコ「・・・・・;」

 スミ「バス使えば良かったのに・・」
 コウ「同じ待つなら次のバス停まで歩こうと思ったら
    見事に追い越されちゃって・・w」
 タエコ「後輩ちゃんまで巻き込んで、可哀相に・・・ねぇ?」

 フミコ「い、いえ、私も先輩と同じ意見でしたし、
     むしろ私の方が歩きたかったというか・・」
 タエコ「うんうん、健気だね〜」
 フミコ「あ、いえ、その・・私は・・・」
 コウ「タエチーうるさい!」
 タエコ「ハイハイw」

 フミコ(・・・ホッ・・・・・)

フミコが心を開いたのは、あくまでもまだコウに対してだけであって
タエコへの下手な対応を見れば、それは一目瞭然である。

コウが思わず間に入って、タエコの茶化しを止めた事が
フミコにとってプラスになったのかは解らないが・・
助け船になった事は確かである。






ゆっくりと夕暮れを向えはじめる空・・・
話題が一時的に止まり、ちょっと間、静かになった車内・・・・


 コウ(・・・・・でもあの時・・もし、シーナ先輩達が来なかったら・・・・・)
 フミコ(・・あの後・・どうなってたんだろう・・・?)


2人は“あの照れくさい空気”を
心がシンクロするように思い出していた・・・・・。



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by: へろ
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