彩花の騎士
ストーリー 06

正午半過ぎ。

別館3階『食堂』。

南側がガラス張りになっており、程よい日当たりと
彩花街どころか、遠方の市街地までも一望できる
絶好の見晴らしのこの場所にて・・・



窓際の席にも関わらず、
その景色などまるで目に入っていない生徒が4名・・・・・。


 コウ「・・・い、今でも信じられないよ・・・・・」
コップを掴む手が震える・・

 ヨシコ「いや〜まさかコウが適合者だったとはね〜・・・
     これで騎士様になったら内部の取材がはかどるわw」
 タエコ「そっち!?」
 スミ「それにしてもコウ、Aランク適合者だなんて・・
    『ユミ先輩』と『ナギサ先輩』以来じゃない?」


先の魔法力測定で、『適合者』である事が判明したコウ・・・。

自分が適合者だと解った直後、
脳内パニックを起こし、しばし棒立ちフリーズしていたコウを
ヨシコがこの食堂まで引っ張ってき、
今こうして4人でテーブルを囲っているわけだが・・・。


 ヨシコ「それよそれ!、Aランク適合者!。
     期待のルーキー『石橋 イサミ』さんもそうだったけど・・
     もしかしたら今年はディアース3機編成とか見れるかも!」
 タエコ「いやいや、それはそれでマズイでしょ!
     それだけ強力なムゥリアンが襲来してるって事よ、それ」
 ヨシコ「“それ”って言い過ぎ・・」
 タエコ「そっち!?」








『適合者』にはE〜A、そしてS・・という“ランク”が存在する。
『魔法力』の密度・濃度を表したものである。

魔法力は使う(ウルズマイト機関を通して動力などにする)と、
消費量に応じて“疲労感”となって体に現れるものなのだが・・

このランクが高いほど、その燃費が良く(疲労感が軽く)
扱える乗物や武具の種類も増え、性能や威力も高くなるのだ。


ただ、“疲労感”というものは人それぞれ“曖昧”なものであり
“体力”などにも大きく左右されるため、
単純に「高い=強い」・・という訳でもないが・・・。



また、このランクの高さも
魔法力の有無同様に、先天的に決まっており
心身の成長や鍛練で上下する類のものではない。

後天手術で強化する事もできるが、今の科学ではBランクまでであり
Aランク以上の適合者はかなり珍しいのである。







 ヨシコ「―――――だからコウ!
     アンタ今凄い状態なのよ!、解る?」
 コウ「う、うん・・なんとなくは・・・」(・v・;)
 タエコ「ダメだ、目が点になってる・・・」
 スミ「コウの場合、ずっと憧れてただけに
    私達の時とは受け止め方が違うのかもね・・。
    落ち着いてからゆっくり説明してあげましょ」



・・その後、しばらくあーだこーだという話が
話題の当人であるコウを置いて進み・・・・・



測定祭の終了時間間近を知らせる校内放送が流れる・・・


 ヨシコ「―――っとそうだ!、
     アタシまだ全部終わってなかったんだった!」
慌てて席を立つヨシコ

 ヨシコ「じゃあコウ!
     こうなったんだから、アタシの分まで頑張んなさいよっ!!」
そう言ってヨシコは、コウの背中をバシッ!と叩く
 コウ「あうっ!」








――――――――――――









2時過ぎ。

測定祭、その後の教室でのホームルームなども終了し・・・放課後。





『裏門前』に幾人かの生徒達が集まっている・・・。


魔法力測定の結果、『適合者』である事がわかった1年生達とコウ・・
“騎士様候補”達である。




 コウ(あぁーどうしよう・・・!!!、私が騎士様?!
    確かに憧れてたけど・・・・・!?)
未だに頭の中で纏まりがつかない・・


無理もない。

小学校時代の思い出補正や、わざわざこの学校に転校して来たコウにとって、
騎士様のイメージはかなり“美化”されており・・

自分のような“普通”の人間が
適合者というだけで、ポンッと選抜されるシステムとは
夢にも思っていなかったわけで・・・。



そしてこの“美化”こそが問題なのだ・・・・・。



コウの騎士様(アイドル)への“憧れ”というのは

それらを観賞したり愛でたり・・
文字通り「偶像」としての“憧れ”を指しており

自分もなりたい、同じ舞台に上がりたい・・
といった「目標」としての“憧れ”ではないのだ

・・・いや、昔はそれもあった・・・
が、“美化”が進むあまり、自分には無理・・と決め付け、諦め
以来、“偶像”としての憧れに特化するようになった彼女の視点・・・


ファンとしての入れ込みが強かったからこそ起こる・・
自らが作り出したイメージによる、多大なプレッシャー。


コウのようなメルヘン思考・・妄想癖が強い人間は
プラスにもマイナスにも考えが連鎖、連想するため
このプレッシャーと、そこから膨らむ“考え過ぎ”が、
彼女を混乱させているのだが・・・・・。



今のコウに、そんな自己分析をできる余裕は・・・まったく無い。









そんなコウの事など知った事か・・

この『裏門前』を見るには絶好のポイント・・
本校舎と別館を繋ぐ『渡り廊下』には、

“1年生の新しい騎士様”目当ての多くの生徒達(ファン)が
こちらをキャーキャーと・・まるで品定めをするかのように見守っていた。




 ???「―――先輩」

・・と、イッパイイッパイのコウに
聞き覚えのある声が話し掛けて来た・・・
 コウ「・・・?」


振り向くと・・・・・



 コウ「ふ・・・・フミコちゃん!?」
 フミコ「どうも・・」
軽く会釈

 コウ「ど、どうしてフミコちゃんがここに!?」
 フミコ「私、適合者だったみたいなので
     担任の先生がここへ行きなさいと・・」
 コウ「!?!?」
声にならない驚きの表情をするコウに対し
淡々と続けるフミコ

 フミコ「先輩も適合者だったんですか?」
 コウ「え?、あ、うん」
 フミコ「奇遇ですね」
 コウ「き、きぐ・・」
 フミコ「少し聞いた話だと、防衛団って拘束時間が長いみたいですよ」
 コウ「ぼう?、あ、騎士様の事ね」
 フミコ「あぁ・・そういえばこの学校ではそう呼ぶんでしたね」

フミコのあまりにも落ち着いた様と、
“騎士様=学園のアイドル”という認識の無さに
拍子抜けするコウ・・


しかしこのフミコの作り出す空気は
コウにとって程よいクールダウン効果があるらしく

グチャグチャになった頭の中を、徐々に冷静にしていった・・・。






その後、しばらく他愛無い会話が続き・・・






 フミコ「―――・・・・・」

なんとなく話題が尽きる・・・

 コウ「・・・フミコちゃん」
 フミコ「はい」
 コウ「ありがとね・・」
 フミコ「・・・???・・・・・あ、はい」
とりあえず合わせた・・という感じで返事をしたフミコは、
それをこの会話の一区切りと捕え、何も聞き返さなかった・・・。







 コウ(・・防衛団・・か・・・・・)

騎士様ではなく『防衛団』・・フミコのその見方が
偏ったコウにはとても新鮮に感じた・・・。


そして、単純に防衛団に入る・・と考え直した時
本来ならムゥリアンと戦う事への緊張が強まるはずが
何故か妙な安堵感を覚えた・・・。

それはまだ、ムゥリアンというモノに実感がなかっただけだろうが・・・
今のコウには、テレビで見る怪物よりも
目先の、理由が解らないプレッシャーの方がよっぽど脅威だったのだ。





 コウ(私・・何にそんな緊張してたんだろ・・・・・)





ふと視線を送った先・・・
渡り廊下から向けられる・・“ファンの視線”。



 コウ(―――――・・・・・・・あ・・・)


それこそが緊張の原因であると
フミコとの雑談によって冷静さを取り戻したコウは、ようやく理解できた。


自身が“あちら側”の人間だからこそ解る、あの視線の意味。


過剰な美化、自らが作り出したイメージ・・・





・・そうやって、
彼女達(ファン)と自分を重ね合わせ、自らを客観的に見る・・・。


原因が解れば、それに対処できる心構えができる。







幸い・・コウのメルヘン思考は、プラスに働く事の方が多い。
物事を良いように、自分勝手な解釈で突き進む・・・プラス思考の連鎖。


そうなってしまえば・・
既に諦めていた、騎士様への“目標”の憧れが復活するのに
時間はかからなかった・・・。




先程まであれだけ緊張し、混乱していた事がまるで嘘のように
今は騎士様になれる事がワクワクとさえしている。







 コウ(・・・フミコちゃん、ありがとね・・・!)
このキッカケを作ってくれたフミコに、心の中で改めてお礼を言いながら
熱い眼差しを送る。

 フミコ「・・・???」
    (先輩どうしたんだろ・・急に鼻息荒くして・・・
     !?・・あの、目が恐いんですけど・・・・・)




 コウ(・・・うん!、しっかりしなくちゃね!!)

フミコの内心はどうあれ・・
後輩にここまで助力してもらって先輩の自分が・・!、という“思い込み”が
コウの意思をさらに強くする・・・

それは食堂で、気の知れた同級生達に囲まれていた時には
まったく湧き起こらなかった・・

先輩と後輩の関係だからこそ芽生えたであろう感情であった・・・。




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by: へろ
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