彩花の騎士
ストーリー 01

冬の夕暮れ、とある公園・・・

ベンチにほんの少し距離を置いて座る2人の少女。



・・重い沈黙の末、一人の少女が白い息を小さく空に吐き、言葉を出す

「・・・ゴメン。アタシ・・そういうのってよく分からないんだ・・」

もう一人の少女は、
下を向いたまま、膝の上に置いた手をギュッと握る・・

「だから、気持ちは嬉しいけど・・・・・・・・・。」





――――――――――――――――





「!?・・・・・・・・・・」

そんな百合めいた、玉砕めいた夢で目を覚ました少女。


まだ虚ろ眼なまま、手探りでベッドの上にある目覚し時計に手を伸ばす・・
と同時にアラーム音がけたたましく部屋に鳴り響く。

セットした時間とほぼ同時に起きた事に、自分なりの小さな幸せを感じながら
アラームを止めると、先程の夢の記憶が一瞬であやふやなものになる・・・。

(・・・・・アレ?、何の夢見てたんだっけ・・・・・・・・?。まぁいっか・・・)




今は4月。
まだ残る朝の肌寒さを感じつつも、勢いよく部屋のカーテンを開くと
見事な快晴。

寝癖まじりの髪で、大きく背伸びをしたのち
タオルとメガネを持って洗面所に向う・・・。



彼女の名は『美里 コウ』。
これといった取り柄のない、本作の主人公である。






――――――――――――――――






ここは『彩花街(さいかまち)』。

30年前のムゥリアン戦争後、山を切り開いて作られた新しい街である。
大きくもなく小さくもない、住宅と自然ばかりの、極々普通でのどかな街。

そしてこの街に唯一ある高校であり、女子高である・・
『私立三枝女学園(しりつさえぐさじょがくえん)』。

美里コウ、彼女が今日から通う学校だ。




この学校、この街の北部・・山の手の高い場所にあるのだが・・・


 コウ「・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」
いまどきアシスト機能も何もない純人力の自転車で、
校門まで続くひたすら長く急な上り坂を、息を荒げて登るコウ。

その姿がよほど珍しいのか、それとも滑稽なのか・・
すれ違う生徒達からクスクスと笑い声がする。
が、当の本人はそれどころではないため、まるで耳に入ってこない・・

 コウ「・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・・」
   (・・や、やっぱり・・・ケチらずアシスト自転車買えばよかった!!)



――――――――――――



やっとの思いで校門前に到着したコウは、一息も兼ねて
上り坂の上から街の方を見渡した・・・

そこには自分を誉めてあげたいと思うほど、今まで通り過ぎた家々が小さく見え、
彩花街はもちろん、遠方の市街地までも一望できる光景が広がっていた。

さらにそれに彩りを添えるかのように、校門前に植えられた桜の木々が
春の心地よい風で緩やかに揺れている・・・・・・

 コウ(・・・・・・・・・・帰って来たんだ!)
そう思う彼女の目はどこか潤んでいた・・・。



コウは元々、中学までこの彩花街で暮らしていた。
そして希望の進路も、昔からこの三枝女学園と決めていたのだが・・
親の転勤に伴い、高校の1年間を他県で過ごし
今年(高2の春)、両親を説得し、単身、彩花街に帰って来た・・・という経緯がある。

そんな私情もあり、
コウにとって今見える景色は、本来以上の輝きがあるのだろう・・・。


 「・・・コウ?」
すると、後ろから自分を呼ぶ声がする。

 コウ「?」
振り返ると、コウにとってはとても馴染み深い二人の少女が立っていた・・

 コウ「・・タエチー!、スミちゃん!」
コウの小・中学校時代からの親友である。


 「何よ何よ何よ!、いつ戻って来てたのよ!!」
そう言いながら歩み寄ってくる、ぽっちゃりとした体形の少女。
名は『伊倉 タエコ』、通称『タエチー』。

タエコの後に続く、セミロングの少女は
コウと目を合わせ、ニコッと微笑む。
名は『墨田 スミ』、通称『スミちゃん』。


 タエコ「戻って来てるなら連絡ぐらいしなさいよ〜」
 コウ「フフ、ビックリさせようと思って!」
 スミ「これでやっと3人揃ったね」



・・・そんな再会を喜んだのも始めのうち、
気付けば他愛ない日常会話をしながら校門をくぐっていた・・・

1年間会っていなかった事など、まるで無かったかのようなその感覚は
3人にとって、自分達の仲を再確認するには十分なものだった・・・・・・。



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by: へろ
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